『赤坂ふきぬき・大丸心斎橋店』
久しぶりにうなぎを食べた。先日食べたうなぎの話を書きたい。
私は大阪風の直焼きのうなぎも好きだが、好みで言えば、江戸前、つまり東京風の蒸したうなぎの方が好きだ。江戸前のうなぎは、大阪風の直焼きに比べ、歯ごたえや炭火の香ばしさはなくなる。しかし、ふっくらとして口の中でとろけるような柔らかさは、「蒸す」という手順を経ないと、得られないものだ。
江戸前のうなぎが食べたい。私の脳裏にある店が思い浮かんだ。
『赤坂ふきぬき』。『赤坂ふきぬき』は、見田盛夫氏の『東京五つ星鰻と天麩羅』によれば、「赤坂通りに面して建つ、粋な紅殻(べんがら)色の建物が目を引く。大正12年(1923)創業し、名古屋名物のひつまぶしを関東でいち早く紹介した店として知られる。」と書かれている。確か、大阪の心斎橋に店舗があったはずだ。『赤坂ふきぬき大丸心斎橋店』は、店名の通り、大丸心斎橋店のレストランフロアにある。
- 作者: 見田盛夫
- 出版社/メーカー: 東京書籍
- 発売日: 2017/07/27
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デパートのレストランフロアは平日でも昼はけっこう混雑しているものだが、うなぎ屋はけっこう空いていることが多い。洋食、蕎麦、うどん、トンカツなどは混んでいることが多いのに、うなぎ屋は、土用の丑の日を除くと、空いている。私はその日、平日なのに休みで、用もないのに、心斎橋の辺りをぶらぶら歩いていた。
『赤坂ふきぬき』も空いていた。店に入ると、客は中国人の観光客のカップルの他、サラリーマンの2人組。40歳くらいの夫婦。そして私。店内は「和モダン」という風情で、琴のBGMが流れている。大丸百貨店の13階に位置し、大きくとられた窓の外には心斎橋の風景が広がる。そのうち、年配のサラリーマンが暖簾をくぐって店に入って来る。多くの人はランチメニューか、ひつまぶしを注文しているようだ。
注文は、ひつまぶしではなく、うな重にすることにしていた。もともと、私はひつまぶしという料理がそれほど好みではない。食べ方や薬味のバリエーションで確かに変化を楽しめるし、お茶漬けのようにして出汁で食べるうなぎも「乙」な感じなのかもしれないが、その日はうな重という、ある意味単調なグルメを求めていた。
ランチのうな重は1,800円からあるが、うなぎが少なめに感じたので、私はランチではなく、もう少しうなぎが多めの夜のメニューから注文を選ぶ。普段の昼食とは違うので、このあたり、金に糸目をつけない。使用されているうなぎの量ごとに、「菊」が4,700円、「松」が3,980円、「竹」が3,230円、「梅」が2,500円と4種類のうな重が用意されている。私は、下から2番目の「竹」を注文する。下から2番目というと大したことのないように感じてしまうが、一番リーズナブルな「梅」でも2,500円もする。ランチとしては破格だ。うなぎは本当に高価な食べ物になってしまった。
寿司屋では、寿司の前にビールを注文して、お造りや小鉢を肴に一杯やってから、おもむろに寿司を握ってもらうなんてことをすると楽しいが、うなぎ屋ではあまりビールを注文しない。まず、肴となるべきメニューが少ない。肝焼きもそれほど好きではないし、白焼きはうな重並みに高価だし、う巻きやうざくでも高い。それより、メインとなるうな重だけをサッと食べて、サッと店を出る。そんなハードボイルドな雰囲気がうなぎには似合っているように感じる。
そうこうしているうちに、料理が運ばれてくる。うな重の箱を開ける瞬間、映画のオープニングのような期待に胸を膨らませる。
昔、子供の頃、うな重という食べ物を初めて知った時のことを思い出した。丼でなく、重箱に入っている。その頃から、カツ丼とか丼物が大好きだったのだが、その瞬間、丼というものが何とも野暮なものに感じられた。重箱という特別感が良かった。
蓋を開けると湯気がぼわっと立ち昇り、タレの香りが食欲を刺激する。見事なビジュアル。美しいうなぎだった。
アップで。職人の技。「串打ち三年、裂き八年、焼き一生」と言われるように、うなぎは難しい。仕入れたうなぎの質にもよるし、名店でも外れの時がある。今日は当たりだった。
うなぎ。丁度良い火の入り。ふわふわ。江戸前の王道。これだよこれ、と心の中でつぶやき、かきこむ。
タレ。大阪風のものに比べると、辛めで量もすくなめ。このくらいがちょうどよい。ベスト。時々、水たまりにダイブしたような、「つゆだく」のうなぎを見かけるが、あれは閉口する。
米の炊き具合。やや固めでちょうど良い。
美味しいものは絵になる。絵になる食べものは味も良い。ダラダラと長居せず、サッと食べ終わり、店を後にする。
【赤坂ふきぬき 大丸心斎橋店】