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ショパンの舟歌のプレイリストを作って聴く

ショパン舟歌が好きで、クラシック音楽を聴きはじめてから今日に至るまでずっと聴いている。

あまりに好きなので、私はiTunesで、お気に入りの様々なピアニストによって演奏される、「舟歌だけのプレイリスト」を作っている。軽い気持ちで聴き流すと、いつの間にか聴き浸ってしまい、この音楽の持つ流れるようなリズムと、叙情的な旋律に、身を委ねることになる。


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ショパン:4つのバラード、幻想曲、舟歌

ショパン:4つのバラード、幻想曲、舟歌

最初は、クリスティアン・ツィマーマン。一言で言うと完璧主義者の舟歌だ。私がショパンに夢中になったのは彼のショパンを聴いたからであることを思い出した。クリスタルのように澄んだ音色。完璧なテクニック。絶妙なテンポ。詩的で、エレガントで、ノーブル。これを聴いて、嫌いになる人はいないだろう。万人にとって最良となり得る演奏。

ラフマニノフ:ピアノ・ソナタ 第2番/ショパン:ピアノ・ソナタ 第2番、他

ラフマニノフ:ピアノ・ソナタ 第2番/ショパン:ピアノ・ソナタ 第2番、他

エレーヌ・グリモーは男性ピアニストと比べても勝るとも劣らない力強いタッチが中性的で、フランス人なのにドイツ風の骨太な演奏がとても良い。

プレイリストは、ルービンシュタインの演奏する到達する。ルービンシュタインの演奏は、度量が大きな人のように、安心感がある。豊かな音色には、豊かな人生が反映している。実に堂々としていて、揺るぎない信頼感がある。

ボジャノフ ワルシャワ・ライヴ (Live in Warsaw / Evgeni Bozhanov plays Chopin, Schubert, Debussy, Scriabin, Liszt) [輸入盤]

ボジャノフ ワルシャワ・ライヴ (Live in Warsaw / Evgeni Bozhanov plays Chopin, Schubert, Debussy, Scriabin, Liszt) [輸入盤]

エフゲニ・ボジャノフの演奏は、個性的だ。覚醒的で、緻密で、非常に解像度の高い写真のような演奏となっている。それでいて独特のスケール感を持っており、まるで交響曲を聴いたような満足度のある演奏である。ボジャノフは、ピアノの達人で、テクニックは憎らしいほど完璧。解釈は確信的。この演奏からはショパンが「ピアノの詩人」であるとは思えない。一般的にイメージするショパンの演奏とは確かに違っているのだが、聴き終わったときにこちらのイメージを塗り替えるような力強さを持っている。とても聴きごたえのある演奏となっている。

デビュー・リサイタル

デビュー・リサイタル

マルタ・アルゲリッチ。この演奏はデビューリサイタルからのものだ。聴いていて強く感じるのは、これは舟歌のリズムではなく、アルゲリッチのリズムだということだ。独特のタッチ。独特のテンポ。少し聴いただけでわかるアルゲリッチ特有の音。彼女だけの音楽。いてもたってもいられなくなるような、掻き立てられるような、焦らされるような、強烈な求心力を持った音楽。悪魔に魅入られたように、彼女から発せられる音楽に支配される。鮮烈で、魅惑的な舟歌

ワルシャワ・リサイタル~バレンボイム・プレイズ・ショパン

ワルシャワ・リサイタル~バレンボイム・プレイズ・ショパン

ダニエル・バレンボイム。新しい録音なので音質が素晴らしい。まるで空気の震えまで収まっているかのような臨場感。現代を代表する指揮者としても有名なバレンボイムはピアニストとしても現代を代表する存在だ。この演奏はピアノを、ショパンを、観客を知り尽くしている、という感じで、私などは軽く捻られる。かといって蓄積や昔の財産で食っているような嫌みはなく、最高のパフォーマンスを出すための真摯な姿勢が見える。レストランで高価なワインを注文すると大抵満足する。定評のあるものは大抵素晴らしいものだ。高価なバレンボイムのリサイタルに行った気分が味わえる。


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そうやって沢山のピアニストの舟歌を聴いていると、舟歌のノスタルジックな旋律に乗って、ピアニストの生きざまのようなものが伝わってくる。私はピアノの演奏はできないし、聴くばかりだが、音楽を通して伝わってくる彼らの人生の豊かさみたいなものひしひしと伝わってくる。

巨匠・バレンボイムの次は、若いピアニストが待っている。

Chopin: Mazurkas Op.56, Nocturne in B Major, Scherzo in E Major, Piano Concerto in E Minor Op. 11

Chopin: Mazurkas Op.56, Nocturne in B Major, Scherzo in E Major, Piano Concerto in E Minor Op. 11

ダニール・トリフォノフ。瑞々しくて、若い。コンクールの演奏なので、観客の緊張感みたいな雰囲気がある中で、若いピアニストが果敢に、怖いもの知らずで攻めている。作品への没入は周りが見えなくなるほどで、途中で彼の演奏を止めることはできない。ピアノに没入し、存在を消していくのにしたがって、現れ出る音楽の影は次第に巨大化していく。瑞々しいエネルギー、繊細きわまりないタッチ、高い音楽性が高度に結晶した素晴らしい演奏を聴くことができる。

トリフォノフは別の演奏もプレイリストに入れている。このアルバムのメインは、ゲルギエフが指揮するチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番だが、舟歌カップリングされている。コンクールではないので、ややリラックスした気持ちで弾いているのだろう。演奏はやや丸くなっており、技術的にも完璧だが、私はコンクールの方の、粗削りではあるが、個性が前面に出た演奏が好みだ。

ショパン:スケルツォ全曲、子守歌、舟歌

ショパン:スケルツォ全曲、子守歌、舟歌

マウリツィオ・ポリーニは基本的にアスリートだと思う。ツィマーマンが「柔」であればポリーニは「剛」。すべての音符を平等に音楽にしていく迫力。前に向かう推進力。テクニックに優れたピアニストはポリーニ以降も現れたが、彼の、鉄のような意思を感じるような、苛烈なピアニストは見たことがない。

ラファウ・ブレハッチI

ラファウ・ブレハッチI

ラファウ・ブレハッチ。最後には、最もショパンらしい演奏をプレイリストに入れている。ブレハッチは、ツィマーマンと同じようにポーランド人であり、美しい音色や繊細なタッチが共通するが、全然違う香りがするのはなぜだろう。ブレハッチのピアノには骨董品のような素朴な輝きがある。ブレハッチは、ツィマーマンほど完璧主義的ではない。例えばツィマーマンがリサイタルに自分のピアノを持ち込んでホールの音響を考慮して徹底的に調整するのはよく知られているが、ブレハッチはそこまでしないだろう。あるいはどこのコンサートホールに備え付けのピアノでも、自分らしい音を聴かせるのではないか。ロマンチストであり、高度なテクニックを持つ、同じポーランド人なのに、両者の演奏は全く異なる。しかしどちらもショパン舟歌のとても優れた演奏となっている。

このようにプレイリストで音楽を流していくとあっという間に時間が過ぎていく。