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ラミン・バーラミ&リッカルド・シャイーのバッハ

バッハの鍵盤楽器協奏曲集は、私がとても好きな曲ばかりなので、日頃よく聴いている。第1番BWV1052ニ短調は最も有名なもので、初めて聴いたときの衝撃は相当なものだった。同じ協奏曲としては、モーツァルトのピアノ協奏曲第20番ニ短調を初めて聴いたときの衝撃に並ぶくらいだった。何の偶然か、どちらもニ短調の曲だ。


バッハの鍵盤楽器協奏曲は、元々鍵盤楽器のための曲として作曲されたものではなく、ヴァイオリンなど他の協奏曲からの編曲や別の作品からの転用などによって書かれたと言われている。最も有名な編曲としては、第3番ニ長調BWV1054で、こちらはヴァイオリン協奏曲第2番ホ長調BWV1042としてのほうが有名だ。


私が最も好きなのは第2番ホ長調BMV1053で、マレイ・ペライアがアカデミー室内管を弾き振りしたSONY盤は愛聴盤として神棚に(ないけど)上げて飾っておきたいくらいのもので、今でも週に5日は聴いている。


バッハの鍵盤楽器協奏曲の演奏は、時代的に、チェンバロ演奏によるものも多く、それらも好んで聴いているが、私はピアノの方が好きだ。前述のマレイ・ペライアの演奏もピアノだ。チェンバロの清楚な響きも捨てがたいが、バッハの時代にはなかった現代ピアノによる細かなニュアンスの表現力は、曲を書いた本人の構想を超えているのではないかと思えるほど多彩だ。


そんなに好きな曲なので、いろいろな録音を揃えているのだが、無茶苦茶たくさんの種類の録音が発売されているというわけではなく、意外に限られたものなので、新しい録音が発売されると大体買っている。


Bach 5 Klavierkonzerte

Bach 5 Klavierkonzerte


このCDは、ラミン・バーラミがリッカルド・シャイーが指揮するライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団との共演で収録したものだ。超有名な第1番BMV1052からBMV1056までの5曲が収録されている。2009年録音、2011年発売という比較的新しいもので、私は発売してすぐに手に入れた。


協奏曲としてみると、このCDの雰囲気は、演奏技術を競うような殺伐としたものではなく、ピアノとオーケストラの調和によって、聴かせる玄人好みのものだ。オーケストラは基本的にはビブラートを抑えたピリオド奏法に近いが、学問的なそっけなさというか、お勉強的なつまらなさはない。軽やかでまろやかで華やかである。バランス感覚が絶妙だ。


ラミン・バーラミは、まだ40代にさしかかったばかりの中堅ピアニストでありながら、当代きってのバッハ弾きである。バーラミのピアノの特徴は、タッチは力強く、ズンズンと重厚なのに、全く鈍重にならない。それでいて、いかにもドイツ風、巨匠風というわけではなく、イタリア的な歌心を感じさせる。存在感をもった音が、玉が高いところから低いところへ自然に転がるように流れていく。同じバッハ弾きとして、ペライアの演奏も傑出していたが、バーラミの演奏もそれに並ぶ。バーラミはイラン出身で、イランイラク戦争の戦時下で幼少期を過ごした。音楽の才能があったため、人の縁に恵まれヨーロッパに留学することができた。その頃からバッハの音楽が彼の支えであったという。バーラミのバッハが感動的なのは、そうした過去が演奏に宿るからかもしれない。


バッハ:ピアノ協奏曲第1、2、4番

バッハ:ピアノ協奏曲第1、2、4番



バーラミは、ペライアとはキャリアも世代も異なるが、また別のバッハ像を描くのに成功している。そしてこの2つが私の今の愛聴盤となっている。