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京都・宮川町『グリル富久屋』

京都祇園の近く花街として有名な宮川町に店を構える創業1907年の老舗洋食店『グリル富久屋』。私が学生の頃から様々なガイドブックに掲載されていたので知っていたが、行くのは初めて。イメージとして、歌舞伎役者や芸妓さんや舞妓さんが贔屓にしている店。だから敷居も高く、値段も高そうなイメージだったのか、何故か今まで行く機会がなかった。


もう12月の話になってしまうが、訪れることができた。祇園甲部歌舞練場の中にある『フォーエバー現代美術館 祇園・京都』に「草間彌生展」を観に行った昼に訪れた。ちなみに『フォーエバー現代美術館 祇園・京都』は2月をもって閉館が決定している。



美術館を出て、建仁寺沿いの道を曲がり、大和大路を南下。建仁寺の境内を通ってもよいが、建仁寺に拝観したい気持ちになったら困るので、店を直接目指すことにして、7分ほど歩く。12時ちょうどくらいに店に到着する。



外観はイメージと違って、庶民的な雰囲気だった。知らない人から見ると、創業110年の歴史がある店とは誰も思わないだろう。中に入ると、ランチタイム真っ只中というのに席に余裕があった。いかにも観光客のような人や京都を訪れる外国人風の客もいない。京都の人が気軽に訪れる店で、場所柄、祇園の住人や働く人も訪れるかもしれないが、私のように身構えて訪れる人は少数派なのだと知った。奥にテレビがあって、客の誰かの好みか、店の人と客の最大公約数的に選ばれた番組が放映されている。テレビはあっても見ないので、私は気にしない。テレビが普通に存在している洋食店、というのが昨今珍しいので、それはそれで味があると思った。雰囲気も接客も全体的に気さくな感じで、明治創業という重みは、良い意味でなかった。イメージとしては近所の食堂のようである。店に入りやすいし、過ごしやすい。


私は1,360円の洋食弁当(並)を注文した。私は4人掛けのテーブルに外が見える側に座り、道を走る自転車、行き交う人たちを眺めていた。他のテーブルはお年寄りが一人で食べていて、年配の夫婦が一組いた。夫の方が瓶ビールを開けていた。私もビールを注文したかったが、その後、車に乗るかもしれないので耐えた。



そのうち私の料理が運ばれてくる。楕円の器にご飯とおかずが入れられている。レストラン風に、メインの皿とライスの皿、というのも悪くはないが、お弁当形式というのが嬉しい。私は和食でも松花堂弁当みたいな弁当形式が好きなので、こういうのはテンションが上がる。世界が完結している、という感じがする。おかずはハンバーグ、ヒレカツ、エビフライ、魚のフリット。ハンバーグの下に野菜。ミニトマト。黄色いたくあんの漬物がいいアクセントになっている。



一つ一つの料理がコンパクトなのは、昔からの流れで、芸妓さんや舞妓さんが口を大きく開かずに食べられるようにという配慮だそうだ。また匂いが強い食材も避けている。ハンバーグも香辛料の香りは控えめで、家のお弁当に入っているハンバーグをグレードアップしたような味だった。


トンカツにソースはあらかじめかかっておらず、必要ならテーブルに置かれたソースを使用するシステムのようだ。トンカツは揚げたてでカラッとしてサクサクしており、この上品で小ぶりなトンカツにソースをかけるのが何とももったいない感じがした。何もつけなくても、仄かに塩味がして、これでもいける。私は、魚のフリットのタルタルソースを少しつけてみる。これはいける。また、ハンバーグのソースをつけて食べる。それもいける。エビフライは小ぶりだが身が詰まっていてしっかりとしたエビの味がする。魚のフリットは、単なる魚フライではないので、他のフライものとの味の変化を楽しめる。考えてみると、洋食弁当という名前でコンパクトな容器に収まっているが、一つ一つがメインを張れる主役級のメニューだ。


内容が豊富なので、次にどれにしようかと迷ってしまう。一つ一つの完成度が高い。それらをご飯とセットで食べる。オールスター級のおかずを無視して、たくあんでご飯を食べる贅沢。優れた芸術にさらされると、カロリーを持っていかれる。美術館に行くと何故か腹が減る。目の前の食事に集中し、失ったカロリーを取り戻していく。


すっかり食べ終えて空っぽになった器。時間はまだ1時前だった。京都で過ごす時間はまだたっぷりある。私は先斗町河原町方面に向かうため、鴨川を渡った。




【グリル富久屋】

住所/京都府京都市東山区宮川筋5-341
営業時間/12:00~21:00
定休日/木曜・第3水曜