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大阪市立美術館『フェルメール展』

天王寺大阪市立美術館で開催されている『フェルメール展』に行ってきた。2月16日から5月12日までの長期開催なのでいつでも行くことができるが、後半になるにしたがって混雑が予想される。ウェブで調べた情報によると、3月初めはまだそれほど混雑していなかったようだ。春休みになれば、だんだん混んでくるだろう。そこで、それほど混んでいないこの時期に行ってきた。


vermeer.osaka.jp


今回来日している作品は6作品で「西日本最大規模」と謳われている。現存する絵は30数作品。フェルメールを見るために世界中を飛び回る旅行者がいるくらいだ。1作品来ただけで大騒ぎなので、今回の6作品は、先に行われた東京展での8作品には及ばないものの、私も記憶にないくらいの規模だ。絶対に外せない展覧会だ。30数作品しか現存しないフェルメールの作品を一気に6作品も見ることができる。ありえない。


天王寺駅で電車を降りて、天王寺公園に向かう。この辺りは昔は路上カラオケの名所だったが、いまは芝生広場が整備され、カフェやレストラン、ショップ、フットサルの練習場が並ぶ「てんしば」というお洒落なスポットとなっている。昔の天王寺の面影は全くない。



「てんしば」目当ての流れに交じって、大阪市立美術館に向かう緩やかな人の流れができている。混雑する展覧会であれば、この辺から嫌な予感がするのだが、そういう感じではなかった。通常の『フェルメール展』だとチケットを事前に購入していくのだが、それほど混まないと思っていたので、当日券を購入することに決めていた。会場に着くと、それなりに人出はあったが、チケット売り場も並ぶことなく購入することができた。



今回の展覧会は基本的に一方通行で、退場後は、再入場不可となっている。また、ショップだけの入場も不可となっており、フェルメールらしい物々しさを感じさせるルールが設けられている。そのルールは、私が行ったときに関しては、不要のものだった。「西日本最大級」や「6作品」から想像したほどではなかったのだ。こちら、まさに天王寺を起点に冬に流行した麻疹の影響もあったのだろうか。この冬は、興業的には大打撃であったのかもしれない。しかし、春になれば、フェルメールらしい混雑がやってくるのかもしれない。


今回の来日した6作品は以下の通りだ。

『マルタとマリアの家のキリスト』(1655年頃・スコットランド・ナショナル・ギャラリー)
『取り持ち女』(1656年・ドレスデン国立絵画館)
『恋文』(1669~71年・アムステルダム国立美術館
『手紙を書く女』(1665~66年・ワシントン・ナショナル・ギャラリー)
リュート調弦する女』(1663~65年頃・メトロポリタン美術館
『手紙を書く婦人と召使い』(1670年頃・アイルランド・ナショナル・ギャラリー)
※順不同・カッコ内は描かれた年と所蔵する美術館


会場に入ると、決して空いてはいなかったが、混雑がどうしても気になるほどではなかった。展覧会の構成としては、フェルメールと同時代の画家から始まり、中盤から後半にかけて、フェルメールが登場するという流れとなっている。入り口付近はどうしても混雑するものだが、中盤に入る頃には散らばり、一枚一枚の絵に集中して時間をとって鑑賞することができた。もちろんフェルメールだけでは展覧会が成立しない。ヤン・ステーンやデ・ホーホ、ヘラルト・ダウなどオランダの有名画家の作品も展示されている。フェルメール以外の作品では、ヘラルト・ダウの『本を読む老女』が、まるでレンブラントみたいな圧倒的な存在感の作品で、とても見ごたえがあった。


混雑する展覧会では、絵を見るための行列が数珠つなぎとなって、並んで地道に待つか、遠目から眺めるかどちらかの選択をしなければならない。しかし今回の『フェルメール展』では、平日ということもあってか、混雑が気になるほどではなかった。中盤以降は、絵と絵の間は基本的に人がいない状態だった。肝心のフェルメールも絵の前には3~4人という状態だったので、好きな絵の前で自分の時間を過ごすことができた。


最初のフェルメールの部屋は『マルタとマリアの家のキリスト』、『取り持ち女』が迎える。『取り持ち女』は日本初公開。有名な作品。転換期のフェルメール作品だ。この二枚で歴史画から風俗画への転換を表しているのがすごい。この展示のためにエディンバラドレスデンから集めてきたのがすごい。


リュート調弦する女』、『手紙を書く婦人と召使い』、『手紙を書く女』。どれも初めて目にすることになった。見ることができてよかった。この辺りでは、混雑はそれほどでもなく、絵を見るための列もなく、ゆっくりと鑑賞することができた。


今回の作品の中で私が好きな作品は、『恋文』だった。これは是非一度、現物を見てみたいと思っていた作品だった。ある面、フェルメールらしい、とても思わせぶりな作品で、絵の素晴らしさだけでなく、想像する楽しみが与えられている。二人の登場人物の表情もそうだし、描かれている様々な小物がいちいち暗示的だ。立てかけられた箒、無造作に脱ぎ捨てられたスリッパ、籠にかかるシーツ、くしゃくしゃになった楽譜、画中画。寓意的でいちいち象徴的だ。こういうものを見たかったのだった。


今回の展覧会はフェルメール作品は6点で、そのうち2点が過去に盗難にあったことがあるというのが、また印象的だった(『手紙を書く婦人と召使い』と『恋文』)。盗難事件史は人気のフェルメールには付きもので、いまだに帰ってきていない作品もある。この2つの作品をいまこうやって見ることができるのも、不幸な盗難の歴史を乗り越えて無事帰ってきたからである。そして、今回の一期一会の出会いを感謝するばかりである。



私は会場を後にして、ショップでマグネットを買った(絵葉書は買わない時もあるが、マグネットは必ず買う)。美術館を出て階段を下りると黄色いチューリップが植えられている。



展覧会を見終わって、私はとても空腹であることに気付いた。芸術に触れると腹が減る。脳を使うからだろうか。いや、そういえば朝を抜いてきたのだった。フェルメールを中心に、オランダ絵画をたくさん見たのでランチもオランダ料理といきたかったが、私はオランダ料理の店を一つも知らなかった。天王寺公園から天王寺MIOまで行って、『銀座ハゲ天』に入った。その日見た絵のテイストと全く違う料理を食べた。しかしとても美味しかった。


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