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ファジル・サイのピアノソナタ集『熱情』ほか


ファジル・サイが弾くベートーヴェンピアノソナタ集を聴いている。『熱情』、『ワルトシュタイン』、『テンペスト』の3曲が収録されている。


大阪の難波の高島屋に行ったとき、ここの駐車場は3,000円以上買わないと駐車場代がかかってしまうのだが(都市部のデパートの駐車場代なので高い)、その時に買ったものといえば『すえひろの天むす』750円だけで、「足りない〜!!」となったときに買ったのがこのCDだった。


ベートーヴェン:熱情・ワルトシュタイン・テンペスト

ベートーヴェン:熱情・ワルトシュタイン・テンペスト


そんな消極的な理由で買ったのだが、車の中でCDをかけていたら、最初の一音が鳴った時からCDが止まるまで、驚愕の連続。虜になった。これはすごい。すごいピアニストだ。


なんて書くと世紀の大発見のように見えるが、ファジル・サイは既に超有名人気ピアニストで、私が単に聴かず嫌いだったに他ならない。人より何週も遅れてようやくゴールに着いたようなものだ、しかし今回改めて、すごいピアニストだと思った。


ファジル・サイは、「天才」というよりも、「鬼才」という表現がぴったりのピアニストだ。そういえば、日本では「鬼才、天才、ファジル・サイ」なんてコピーで売り出された(しかも悪ノリというか、同じタイトルでDVDまで発売されている)。活動のジャンルはクラシックにとどまらず、映画音楽も書いている。


指揮者のバレンボイムマゼールのようなクラシック音楽界にまれに生まれてくる、何でもできる、万能型の神童→大人とは雰囲気が違っていて、漂うのはなんとなく危険な香り(そう感じるのは私だけかもしれないが)。普通でなく、もちろん溢れる才能に恵まれ、天才的でもあるのだが、ちょっとアブノーマルで、優等生タイプではない。しかしとても魅力的でもある。


このピアノソナタ集は、まるで鬼神のような、怒れるベートーヴェンだ。時代の風雲児であったベートーヴェンを現代の鬼才が弾く。だから普通になるはずがない。


目まぐるしく指は回るが、音はつぶれないし濁らない。テクニックは傑出している。スタッカートを多用し、強弱も個性的。猛スピードでカーブに突っ込むレーシングカーのようにスピード感がある一方、じっくり聴かせたい部分では、楽譜を無視して徹底的に遅くなる。しかしその遅さが暗示的で、象徴的で、くせになる。聴こえてくる世界は立体的で、こういう構成力というか説得力は、ファジル・サイのピアニストとしてのポテンシャルの高さと、楽譜の真実を見極める知性の高さも同時に物語っている。


どの曲も優れているが、『熱情』が圧倒的だ。ほかのピアニストのどんな演奏とも違うのに、ほかのどれよりも今はしっくりくる。


こういう演奏に出会えてよかった。おまけに駐車場代も無料になった。


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