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ピリスのショパン後期作品集

以前にポリーニによる『ショパン後期作品集』について書いた。ショパンの後期作品を取り上げた、同様のコンセプトで、マリア・ジョアン・ピリスによる作品集がある。


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曲もほぼ重なっている。発売当時、話題になったので、比較的新しいもののように思っていたが、もう10年以上の前のものとなっていた。時間の経過はとても早く、ピリスは演奏活動の第一線から既に退いてしまった。


■国内盤

後期ショパン作品集

後期ショパン作品集


■輸入盤

Chopin (Dig)

Chopin (Dig)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Deutsche Grammophon
  • 発売日: 2009/06/23
  • メディア: CD


ポリーニを聴いた後に、ピリスを聴くと、これが同じショパンなのかと思うほど異なっている。ポリーニはいくつになってもアスリートである。それが美学のようでもあり、ポリーニポリーニであることの証明のようだ。それに対し、ピリスのショパンの特徴を、一言でいえば、「枯淡の境地」だ。一聴するところによると、静かでシンプルで、地味であるとすら感じられる大人しいピアノだ。しかし聴き込んでいくにつれて、良さがじわじわと出てくる。時間のある時に、2枚組のCDを続けて聴いてみると、聴き終わる頃、まだその世界に浸っていたい、終わってほしくないような、質の高い教養小説を一冊読み終えたような時のような充実した気持ちがあった。


あるいはまた、ショパン国際ピアノコンクールのCDと比べてみる。まるで各国代表選手のような有望なピアニストと比較すると、ピリスのショパンは「ワンダフル!」とはならない。ピリスのショパンは驚くほど儚く、素朴である。しかし、この一人、書斎で(ないけど)、ブランデーのグラスを傾けながら、骨董品のようなスピーカー(ないけど)で聴くのがふさわしいように思える。


こういうコンセプトのアルバムにおいて珍しいのが、チェロソナタが収録されていることだ。こちらが素晴らしくて、もちろん他の曲の演奏全てが良いのだが、この曲があることで、世界観の醸成が濃密で、ショパンアルバムとしての質をさらに上げている。


ショパンの晩年の傑出した作品集として、ポリーニの作品集同様、欠かせないものとなっている。ポリーニの演奏との違いを楽しみつつ、好きなショパンの音楽に浸る。