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大阪フィル『大植英次指揮 躍動の第九』ザ・シンフォニーホール

大フィル×大植英次指揮によるベートーヴェン交響曲第9番(以下、「第九」)の演奏会のため、ザ・シンフォニーホールに行ってきた。

ここ数年、仕事が忙しく、また家庭においても子供がまだまだ手がかかり夫婦共働きでもあるのでコンサートに行くことも激減した。しかし子供も小さいなりに大きくなってきたので、今年最後の思い出として、やり繰りして、思い切って行くことにした。行ってみて、やはり行ってよかったと思っている。感動のままにおよそ3年ぶりとなったブログに書いてみる。

www.asahi.co.jp

大植英次指揮 躍動の第九】

2022年12月18日(日) 14:00 開演

[指揮]大植英次
[管弦楽]大阪フィルハーモニー交響楽団
[合唱]大阪フィルハーモニー合唱団
[ソプラノ]秦茂子 [アルト]福原寿美枝
[テノール]清水徹太郎 [バリトン]萩原潤

プログラム:ベートーヴェン交響曲 第9番 ニ短調 「合唱付」 op.125
会場 :ザ・シンフォニーホール

昼は家で済ませ、会場に着いたのは開演10分前だった。会場に向かう人の流れはもう少なくなってきていた。会場の雰囲気を味わうためにももう少し早く来ればよかった。

私は席に着き、周囲を眺めてみると、満員に近い状態だった。稀に空席が見られるが、急な用事や病気などで来られなくなった人なのかもしれない。さすが大植✕第九。人気の一大イベントだ。客層は、ハイソサエティな感じで、オペラほどではないにしても、着物の人も何人かいた。近くの人が付けている腕時計が見えたと思ったらブルガリだった。普段よりもシックな装いでわざわざ出かけて行く催し(クラシック音楽の演奏会など)に私は疎くなっているので、久しぶりにこういう雰囲気を味わうことができてよかった。

開演時間を迎え、オーケストラ、合唱団が登場する。オーケストラの配置は、第一ヴァイオリンと第二ヴァイオリンが指揮者を挟んで左右に位置する対向配置だった。そして第一ヴァイオリンから時計回りにチェロ、ヴィオラ。第一ヴァイオリンに奥にコントラバス。弦楽セクションの後ろに、木管セクション、その奥の列、正面左側に金管ティンパニなどの打楽器はステージ後方、右奥という配置だった。

合唱団はパイプオルガン前の2階席(W~Z列)に。合唱団と近すぎるために、ステージ真横の2階のRA席とLA席は空席とされていた。

ステージ最奥には段差が設けられそこに4席、椅子が置かれていた。やがて登場するソリストたちは第3楽章のはじめか第4楽章の途中にあそこに座るのだろう。

やがて指揮者が登場する。まるで同窓会のような温かい雰囲気。現在の大フィルの桂冠指揮者。大阪の聴衆は大フィルにおける大植さんの音楽監督時代を忘れていない。ある人は、20年近く前に抱いた「うちら大フィルの音楽監督の大植さんがバイロイトで振るんやで」という誇らしい気持ちを思い出したことだろう。またある人は、大阪クラシックの熱狂を思い出したことだろう。私は約10年前の音楽監督退任スペシャルコンサートを思い出していた。

第1楽章。無から有へ宇宙の始まりのような冒頭部。情熱的でかつ繊細な音楽づくり。この演奏会は一日限り。迫真のパフォーマンス。

第2楽章。大フィルは尻上がりに調子を上げていく。こういう演奏を、上手いというばかりでなく、気持ちの入った演奏というのだろうか。

第3楽章。あまりにも美しい音色に私は悶絶した。頭蓋骨の中の脳が溶けてチーズになるように音楽に入り込んだ。純粋に音楽というだけならこの美しさは第4楽章を超えている。陶酔的な音楽だった。前の席の人がゆっくり首を振るようにして音楽に聴き浸っていた。

第4楽章。ここまで困難、闘争、安らぎが描かれてきたが、それらの音楽を「こんな音楽を望んでいるのではない」と、ベートーヴェンは否定するのだ。そして神の王国、あるいは普遍的な愛を説く。音楽的にも最高潮を迎え、熱狂のまま唐突に終わる。しばし呆然。すごいものを聴いた。残響が終わる頃、会場を万雷の拍手が鳴らす。指揮者とソリストは5回も舞台に呼び戻され、観客の称賛に応えた。

演奏会としての満足度は今年一番だった(あまり行っていないが)。私は弦楽器のうっとりするような美しい音色に聴き浸り、金管、打楽器の迫力に、「これだよ、これ」と唸った。一言でいうと、魂のこもった熱演だった。大フィルならではの強みを、思う存分、出し尽くしたような演奏だった。

今日のように素晴らしい演奏で第九を聞くと思うのだが、第九の内容?世界観?は音楽を超えている。

今日は観客のマナーも素晴らしかった。冬定番の咳払いも気になるところはなし。もちろん着信音などのアクシデントもなし。満員に近い状態なのにほとんどの人が集中して一期一会の熱演に接することができたはずだ。

最初に舞台に戻り、指揮台の上で客席の方を向き直した大植さんに対する一層の拍手はとても温かかった。大阪の大フィルファンは温かい。私も数少ない機会、何とかやり繰りして来てよかった。素晴らしい演奏会だった。