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神戸西元町・行列の名店『洋食の朝日』

神戸西元町にある洋食店。「行列」というキーワードと切っても切れない『洋食の朝日』。私は混雑や行列が苦手で(誰でもそうかもしれないが)、そうした店は避けていた。しかし先日、全く予定のない休日ができて、並んでみようという気になったのだった。平日の休みということもあり、もしかしたら空いているかもしれない、という淡い期待があった。


(↓お店が紹介されている『あまから手帖』のムック)



この店の行列について、行列が二重になっているとか、朝から混んでいるとか聞く。しかし混んでいる時は開店前を早めて入れてくれるということも何かで読んだ。それなら何時に行けばよいのだろうか。開店の11時に着く位が丁度よいだろうか。11時前に店の前に立つことを目標に私は家を出た。


梅田から阪急電車に乗り、久しぶりの休みで機嫌よくウォークマンで音楽を聴いていた。キンドルで本を読みながら車中、時間を過ごしていたら、阪急花隈駅で降りるはずが、間違って三宮で降りてしまう。次の電車はなかなか来ず、時間をかなりロスしてしまった。


店に向かう途中、すでに遠くで人だかりができていることに気付く。私は目を疑ったが、お店の行列に他ならぬものだった。平日の11時半(土日は営業していないということは後で知った)。店まで着くとすでに行列ができており、私の前には15人くらい。店の中にも待つスペースがあるはずなので一体何人待っているのか。私は最悪のタイミングで行ってしまったのか。


ここまで来て11時半。他の店を探すという選択肢はなかった。私は列の最後に並ぶ。しかしその後も次々に人がやってきて、やがて列は歩道の真ん中を開けて左側と右側の二列になった。列の進行は意外に進まず、時間が過ぎていく。店の前にベンチがあるが、そこまでが遠い。風が強く寒い日だった。ダウンジャケットのファスナーを首まで締めて風の当たる部分を少なくする。先客が少しずつ店に吸い込まれていく。そしてベンチに「昇格」し、ようやく店内に通される。店内にも4人ほど待つスペースがあり、そこからは早かった。中で待っている間に注文を聞かれる。私は朝、家を出た時からビフカツに決めている。1550円。ビフカツはきちんとした店で食べると2000円台が普通。『洋食の朝日』はきちんとした店なのに、これは破格の安さと言ってよい。ようやく順番がやってくる。店内は港町の洋風の食堂という風情で、何となく昔元町にあった『洋食いくた』みたいな感じだった。左手の奥に増築したようなテラス席があり、そこにはカウンター的に使えそうな、6人掛けの大テーブルがある。その席が空いたようで私はそこに通される。ついに席につくことができた。


わたしはダイバーウォッチをしていったので、ベゼルを回しておいて待ち始めた時間から時間を計っていたが、最終的には50分が経過していた。つまり、こんなに混雑していても50分待てばよいのであった。その価値があるかどうかを決めるのは料理だ。さて、どんな料理が出てくるのか。



既に注文を済ましていたこともあり、10分もかからずに料理が提供される。噂に違わず。これはみんなが「並んで当然」だ。将棋に例えると、洋食というジャンルにおいて、飛車・角クラスのビフカツを、桂馬くらいの価格で食べられるのである。神戸で食べるビフカツは本場なので、たとえ慎ましいビフカツであっても幸せなのに、これは大変豪勢なビフカツである。



ミディアムレアの断面が美しい。洋食の王様、ビフカツを箸を使って食べる贅沢。私は朝を抜いてきており、さらに50分の待ち時間のおかげでかなり空腹だった。そんな状態で人気店のビフカツを食べるときの幸せの度合いは50分の待ち時間を帳消しにするものだった。これが仮に2時間ともなれば決断に迷うが、50分ならば、立って本を読んでいれば我慢できるものである。私は読みかけの本がかなり進んだことを合わせても、納得した。私は食べ終わると、すぐに会計を済ませて店を出る。行列は相変わらず二列のままである。11時半に行っても、12時半に行っても、状況はあまり変わらないのかもしれない。しかしその先に、待ち時間を超えた満足度があることは確かだった。



その後、せっかくこの辺までに来たのだからと、関帝廟に行ったあと、本願寺神戸別院にお参りして、再び花隈駅から阪急電車に乗って大阪に帰った。

【洋食の朝日】

住所:神戸市中央区下山手通8丁目7−7
営業時間:11時00分~15時00分
定休日:土・日曜日

『グリル生研会館』・白沙村荘・糺の森・下鴨神社

2月3月と、新型コロナウイルス肺炎が猛威を振るっており仕事以外の外出を控えていることもあって、カメラを持って出かけることが少なくなってしまった。こういう時期の休日は自転車で近くをサイクリングするか、好きな音楽を聴いて過ごすくらいしかすることがないが、病気が流行る前のことを振り返る良い機会かもしれない。私は秋から冬にかけ、結構いろいろなところに出かけて行った。


◇  ◇  ◇


糺の森下鴨神社の近くに『グリル生研会館』という洋食店がある。


京都の洋食界における有名店であり、ずっと行きたかった店だが、いままで行くチャンスがなかった。過去に京都に住み、その後、大阪に引っ越してからも京都へは数えきれないくらい通ったが、行く機会がなかった。どこかに訪れるついでと考えた時には12時開店で14時閉店というのが意外に都合が悪いのと、人気店なので混んでいた場合に待つのが憂鬱だったということがある。


何年か越しになってしまったが、そろそろ行ってみようかとその日、思った。店に行くことを中心に考え、その前後に予定を組む形にすれば、12時開店はそれほどネックにはならないはずだ。また平日の休みであれば、店もそれほど混まないだろう。私は、周辺の観光スポット、白沙村荘橋本関雪記念館、下鴨神社、旧三井家下鴨別邸あたりを散策しながら、12時過ぎに『グリル生研会館』に到着するプランを立てた。特に早起きしたわけでもないのに、とても簡単なことだった。どうしていままでそんなに簡単なことができなかったのだろうか。



『グリル生研会館』は、やや速足で歩いて出町柳駅より徒歩10分ほど。既に白沙村荘橋本関雪記念館で時間を使い、到着した時には12時を少し回っていた。待っている人はいなかったが、既に店内は満席で、私は店内の椅子でしばらく待つことにした。開店してそれほど時間が経っておらず、皆が食べ始めたか注文を始めるくらいの時間なのですこし待つことになるだろう。少しして、観光客風の50歳くらいの夫婦がやってきて、私の後に待つことになった。その後は、だれもやって来ず、待つ人は出なかった。


店内を見渡すと全体的に年齢層は高めで、雰囲気は落ち着いている。店内は豪勢な作りではなく、清潔感はあるがシンプルでややがらんとしていて、普通の洋館の広い部屋のようだ。すべてがテーブル席で、カウンターはない。順番によって、一人でも四人掛けのテーブルに通されるシステムだ。料理がすぐに提供されて食べたらすぐに出ていくタイプの食堂という感じではなく、料理が提供されるまでの時間もそれなりにかかっている。注文を聞くのもそれほどせかせかしていない。しかし待つことになっても、自分の順番ではマイペースの時間を過ごすことができる。私はこういう店が良い。


ようやく席が空いて通される。こういう店で注文するものはだいたい決まっている。定番が正解だ。ハンバーグが有名な店なのでハンバーグは外せない。それにエビフライとカニクリームコロッケがセットされるメニューあった。これが鉄板だと思う。1800円。安くはないが、ここは京都の老舗のレストランなのだ。



私は先にグラスビールを注文して料理が提供されるのを楽しみに待つ。ジョッキでは多い。グラスがちょうどよい。



料理全景。10分くらいで料理が提供される。まだビールは少し残っている。



近景。私は残ったビールを飲み干して、食事に取り掛かる。まずはハンバーグから。牛肉の割合たっぷりで本格的なものだ。今まで食べたハンバーグの中でも最高に近い。私の中の美味しいハンバーグの基準は、それぞれテイストは違うが、心斎橋の『グリルばらの木』、千日前の『重亭』が双璧だが、それに肉薄する。タイプとしては両者の中間のような感じだ。


エビフライは小ぶりだが、たっぷりと身が詰まっている。また、小さなカニクリームコロッケが嬉しい。意外にあっさりしている。衣がサクサクで、これは何個でも食べられる。


私は窓際の席で、ひとり京都の洋食店でゆったりとした時間を過ごしている。窓越し、晩秋から初冬の優しく控えめな日差しが心地よい。隣の席は若い女性客の四人組で、いくつかのメインとなる料理をシェアして食べていた。私が食べ終わることには店も空いてきて、空席ばかりになった。人気店なので混んでいるかもしれないということは杞憂に終わった。


■白沙村荘橋本関雪記念館



白沙村荘は、日本画家の橋本関雪のアトリエ兼別荘として作られた。画家の理想、美学が散りばめられている。池泉回遊式庭園は国の名勝に指定されている。庭園のほかに橋本関雪の作品を収めた美術館が見どころとなっている。白沙村荘橋本関雪美術館も以前から行きたかったが、何故か行くチャンスがなかった。今回、『グリル生研会館』と一緒に訪れることができて良かった。


下鴨神社糺の森



京都市内の森」というと糺の森が真っ先に思い出される。森というほど鬱蒼としているわけではないが、木々の間を抜けたところに下鴨神社がある、というのが良い。糺の森と言えば夏の古本市で、あれはとても風情のあるものだと思い出した。私は下鴨神社の境内の茶店で、さきほど豪華な洋食を食べたにもかかわらず、ぜんざいを食べる。


■旧三井家下鴨別邸



財閥・三井家の別邸として建築され、その後、京都家庭裁判所の所長宿舎として利用されるなどの変遷を経て、現在は一般公開されている。重要文化財


写真を見直してみると、紅葉の最後の頃だった。あの時は、新型コロナウイルスが世界中で大変なことになるなんて想像できなかった。また、あの日のような平穏な日常を取り戻すことができるだろうか。

【グリル生研会館 】

住所:京都市左京区下鴨森本町15 生産開発科学研究所ビル1F
営業時間:12時~14時/17時~20時(30分前ラストオーダー)
定休日:水曜夜・木曜

ピリスのショパン後期作品集

以前にポリーニによる『ショパン後期作品集』について書いた。ショパンの後期作品を取り上げた、同様のコンセプトで、マリア・ジョアン・ピリスによる作品集がある。


ushinabe1980.hatenadiary.jp


曲もほぼ重なっている。発売当時、話題になったので、比較的新しいもののように思っていたが、もう10年以上の前のものとなっていた。時間の経過はとても早く、ピリスは演奏活動の第一線から既に退いてしまった。


■国内盤

後期ショパン作品集

後期ショパン作品集


■輸入盤

Chopin (Dig)

Chopin (Dig)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Deutsche Grammophon
  • 発売日: 2009/06/23
  • メディア: CD


ポリーニを聴いた後に、ピリスを聴くと、これが同じショパンなのかと思うほど異なっている。ポリーニはいくつになってもアスリートである。それが美学のようでもあり、ポリーニポリーニであることの証明のようだ。それに対し、ピリスのショパンの特徴を、一言でいえば、「枯淡の境地」だ。一聴するところによると、静かでシンプルで、地味であるとすら感じられる大人しいピアノだ。しかし聴き込んでいくにつれて、良さがじわじわと出てくる。時間のある時に、2枚組のCDを続けて聴いてみると、聴き終わる頃、まだその世界に浸っていたい、終わってほしくないような、質の高い教養小説を一冊読み終えたような時のような充実した気持ちがあった。


あるいはまた、ショパン国際ピアノコンクールのCDと比べてみる。まるで各国代表選手のような有望なピアニストと比較すると、ピリスのショパンは「ワンダフル!」とはならない。ピリスのショパンは驚くほど儚く、素朴である。しかし、この一人、書斎で(ないけど)、ブランデーのグラスを傾けながら、骨董品のようなスピーカー(ないけど)で聴くのがふさわしいように思える。


こういうコンセプトのアルバムにおいて珍しいのが、チェロソナタが収録されていることだ。こちらが素晴らしくて、もちろん他の曲の演奏全てが良いのだが、この曲があることで、世界観の醸成が濃密で、ショパンアルバムとしての質をさらに上げている。


ショパンの晩年の傑出した作品集として、ポリーニの作品集同様、欠かせないものとなっている。ポリーニの演奏との違いを楽しみつつ、好きなショパンの音楽に浸る。

日帰り姫路旅~姫路城と姫路おでん

しばらく休みがなかった中での、久しぶりの休日のこと。


久しぶりの休みをどのように過ごそうか、色々な考えが頭をよぎっては消えた。着替えをして、用意をして、カメラバッグを担いで、私は最終決定を行うことなく、そのまま電車に乗った。そして大阪駅まで来る途中、私はスマートフォンエクスプレス予約のページを開き、姫路と入力していた。なぜ姫路だったのか。距離が絶妙だったからだ。同じか少し遠い場所として、過去には名古屋や岡山には行っていた。その時の記憶は今でも鮮やかだ。ある程度の距離まで行くと、この休みは単なる休日ではなく特別の休みとなるかもしれない。


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私は新大阪駅で『近江すえひろ』の弁当を買う。もう少し後の新幹線にすればよいのにギリギリの時間を購入したため休みなのにタイムカードを押さなければならないかのように急いできた。そのためお茶を買い忘れるという失態をおかす。嬉しい気持ちで弁当の包みを開けた時にお茶を買い忘れたことに気付き、悲しい気持ちで食べ始めた。幸運にも半分くらいまで到達したところで車内販売がやってきた。私は温かいお茶を買うことができた。幸先の良いスタートだった。



周りは出張風のサラリーマン。私は仕事でもないのに、何の変哲もない「ド・平日」に山陽新幹線に乗っていることが素面では信じられなかった。これを酔狂と言わずに他に何を酔狂と言うのだろうか。姫路は新幹線で行くほどの距離ではなく、JRの新快速電車でも1時間半もかからない。それほど遠くはない姫路へさらに時間短縮を図ったことになり、山陽新幹線は一瞬で姫路に着いた。朝の段階ではまさか自分が昼過ぎに姫路にいるとは想像もつかないことだった。追いつかない気持ちを抱えたまま、場所だけが異なっている。そうした違和感が面白い。



さらに、姫路まで行って姫路城に行かないというの選択も面白いと思った。例えば駅前で買い物をして、遠くの姫路城を眺めながら、コーヒーを飲んで帰る。わざわざ姫路で。そんな馬鹿馬鹿しい時間の使い方もオツなものかもしれない。しかし姫路城には行かなければならないだろう。行かないほうが後悔する。そんなわけで、私はともかく姫路城を目指す。駅前の大通りからお城が見えているが、歩くと結構遠い。2キロという距離である。




姫路城に向かって歩く大通りは、歩いている人はそれほど多くないのに、お城に到着してみると、かなりの人出である。混雑している、と言ってよい。国宝で、世界遺産でもあるので、日本人ばかりでなく、というか日本人以外の方がずっと多い。私はずいぶん昔に一度来たことがあったが、その頃は、「好きな人が来る」というレベルだった。今では世界各国から空港に降り立ったツアー客が、駐車場までバスで連れて来られ、そこから大量に城内に送り込まれる。ワールドワイドな観光スポットに変貌を遂げていた。


混雑に萎えるが、私自身がその混雑を構成する一要素でもあるので、それは仕方のないことだ。計画的でない私だからこそ、混雑について論評することは避けなければならない。



姫路城が美しいのは、戦国時代ではなく、安定してから作られたということがある。幸運にして、戦災に遭うこともこともなかった。そうした素性と運の良さに加え、平成の大修復を経て、2015年、白亜の名城の姿が蘇った。こうして近くで見てみると、やっぱり良いと思う。凛とした出で立ちを目にすると、やはり来てよかったと思う。




多くの人の流れに乗って、まずは天守を目指す。平日なので混雑はこれでもましなのだろうが、休日などはどんな状態になるのだろうか。姫路城のホームページでは、「現在の混雑」というページがある。恐ろしい。実際、私が行った日も、少し後には天守への入城規制がかかったようだった。



天気に恵まれ、天守閣からの眺めは最高だった。遠くには先ほどの姫路駅。歩いてきた大通りを眼下に見下ろす。



こうやって上から見ると、お城の作りがよくわかる。私は城について詳しくないが、城マニアからすると、こういうところから見る城の構造は堪らないものがあるだろう。



天守閣前の広場から見上げると、巨大さが際立つ。



西の丸、化粧櫓付近より。


姫路城を見終わった後、また歩いて、姫路駅を目指す。朝昼兼用で食べたのも新幹線だったので、姫路らしいものを食べてみたかった。姫路を代表するようなご当地グルメとは何だろうか。穴子とか、播州ラーメン、姫路おでん姫路おでんにしよう。


駅ビル『ピオレ姫路』に「播州うまいもん処」というフードコートがあって、そこで気軽に姫路おでんを食べることができた。他にも加古川かつめし播州ラーメンなどのご当地グルメを手軽な食べられる店が並んでいる。



姫路おでんの特徴は薬味だ。大根や玉子などの具に加え、姫路ゆかりの具材を使用した蒲鉾。それらを生姜醤油に少量付けて食べる。広いお城の中を歩いたので、疲れていた。姫路おでんで生き返った。


帰りは新幹線ではなくJRの新快速電車に乗った。必要に迫られたメールを打っているうちに尼崎を過ぎ、大阪まであとわずかとなった。遠くて近い姫路だった。


京都や神戸では近すぎてそうはならないが、姫路まで行くと特別な休日を過ごした気持ちになった。それが今回の姫路行きの結論だった。



大阪スカイビルの夕焼け。大阪で用事を済ませているうちに、いつのまにか夕方になっていた。




大阪駅の時の広場では冬のイルミネーションが始まっていた。いつもの大阪に戻ってきたことを実感した。

京都『スマート珈琲店』のスマートランチと相国寺・2019立冬


『スマートコーヒー店』でなく『スマート珈琲店』。「コーヒー」を「珈琲」と書くと、とたんに香りが出てくる。『スマート珈琲店』の特徴は、1階は喫茶、2階はランチということだ。老舗珈琲店のランチが人気を呼び、今に至る。そしていつでも混んでいる。4~5年前は今ほど混雑していなかったように思う。ランチは混雑することもあったが、1階は土日でも座ることができた。京都の老舗店らしく、混雑していても、基本的に相席にはしない。一人だろうが二人だろうが、四人だろうが、その時点で空いている席に通し、席についた人の時間を尊重する。そのため店の外の行列は紅葉の時期などはけっこうなものになってくるが、回転率を上げるなどのオペレーションを優先してないことが、顧客ひとりひとりを優先することになっている。結果的には満足度が高い。待ちたくなければ、早く行けば良いし、『スマート珈琲店』ではランチの予約も受け付けている。


私が行ったときは、紅葉の時期だったので、混雑を予想し、開店11時より15分ほど前に店の前まで行った。平日にもかかわらず、その時点で5組くらいの列ができていたのに一瞬驚いたが、続いて並んでおいた。私の前に並んでいた西洋の外国人カップルは、開店10分前になって諦めたようだった。あと少しの時間なのだが、何か他の用事を思い出したのだろうか。その10分待つことが困難だったのだろうか。私に続き、さらに二組が並ぶ。そして時間ぴったりに前の人から呼ばれていく。並んでいたすべての人が2階に通された。紅葉の時期ということで身構えていたが、その心配は杞憂に終わる。


メニューを渡されて、見てみると、ハンバーグやエビフライなどの洋食の定番に加え、オムライスやハヤシライスなどの単品もあるようだった。しかし大きく書かれていたのは、定食である「スマートランチ」だった。その、メイン料理を選ぶ仕組みの「スマートランチ」をほとんどの人が注文している。メイン料理は次のとおりである。

下記より2品チョイス

  • クリームコロッケ
  • エビフライ
  • ハンバーグステーキ
  • ベジタブルオムレツ
  • ポークソテー
  • ポークカツ
  • チキングリル(香草風味かトマト味)
  • チキンカツ
  • 本日の1品

※プラス400円で3品目チョイス可


私はまずベジタブルオムレツを食べたかった。しかし加えて、ハンバーグとエビフライも食べたかった。私の隣の席に座っていた老婦人二人組のうちの一人は、ポタージュを注文していた。はっきり覚えていないが、ポタージュは500円くらいと書かれていたはずだ。私はスープを注文する気はなかったので、それに比べると安い400円で3品目を追加できるというのはとても魅力的に映った。私は食べてみたかった3品をすべて選び、料理の到着を待った。



すごいものが来てしてしまった。やはり2品がスタンダードで、3品というのは多すぎただろうか。2品が大人にはちょうど良いのだろうか。3品は学生向きだろうか。しかし私はこの3品から2品に減らす自信がなかった。どれも食べたかったものだ。気を取り直して、私は食べ始める。ベジタブルオムレツは外側はこんがり、中はふわふわという、熟練の技を感じさせるものだ。中身はもやし、玉ねぎなどの野菜がしっかり入っており、かなりのボリュームとなっている。こんなにオムレツらしいオムレツを食べるのは久しぶりだった。エビフライは小ぶりだが身の詰まったエビが使われている。そんな中、他との違いを感じさせたのはハンバーグである。よくあるハンバーグとは一線を画した、洋食店らしいハンバーグで、牛肉をたっぷり使用し、つなぎを感じさせないハンバーグに、濃厚なソースがかかっている。



私が期待していたのは、まずベジタブルオムレツで、続いてエビフライ、最後にハンバーグだった。しかし、結果は、ハンバーグ、ベジタブルオムレツ、エビフライの順だった。エビフライは大きさがやや弱い。しかしこの大きさは意外にちょうどよく、トマトソースのチキングリルなどと組み合わせると、また違った嬉しさをもたらしてくれるかもしれない。


私はたっぷりのランチを堪能し、席で会計を済ませ(2階の会計は席で行う)、階段を下りる。そして店を出ると、ランチ待ちの列ができており、5~6組が並んでいた。やはり混雑する店なのだ。





その後、食後の軽い運動に烏丸御池まで歩いた。季節はすっかり秋で、木々の葉の黄色や赤が鮮やかだった。烏丸御池から地下鉄に乗り、今出川で降りた。グルメの後は名所である。食事と観光は切り離せない。今出川から近い相国寺で秋の特別拝観が行われていることを知っていた。今出川キャンパスがあるため同志社大学の学生がたくさん降りた。平日、勉強する学生に混じって、社会人である私が今日は仕事もせずに京都で遊んでいるのは不思議な感じがした。


相国寺は、庭園や仏像は特別拝観のシーズンしか鑑賞することはできないが、境内の『承天閣美術館』に素晴らしいコレクションを持っており、過去に私は時々訪れていたが、最近はまったく行っていなかった。




観光的に言うと、京都が一番混雑する紅葉の時期なのに相国寺は穴場だ。空いている。きっと土日でも混んではいないだろう。アクセスも容易で駅から近い。外国人をはじめとして観光で訪れる人の流れが、こういうところまで行き渡るようになることはまだ先だろう。しかしそんな状況は別にして、相国寺の特別拝観は素晴らしかった。季節は立冬を過ぎていたが、紅葉は見頃。秋の京都を堪能した。

神戸三宮『グリル十字屋』・2019秋分と晩秋

ライフワークのように、ブログを始める以前から細々と続けている洋食店巡り。ライフワークというと聞こえは良いが、単に食い意地が張っているだけである。いかにも洋食、という感じでわかりやすい美味しさを演出するような盛り付け。室内の照明がソースに反射して輝くハンバーグ。タルタルソースがたっぷりかかったエビフライの弾力。切っている最中からソースが溢れるカニクリームコロッケ。昔連れて行ってもらった、地元にしかなかったファミリーレストランが、現在まで至る嗜好の原点となっている。


『グリル十字屋』は、もしも世の中に「神戸の洋食店番付」というものがあるなら、誰が付けても、中入後、幕内に必ず入り、人によっては三役に付けられてもおかしくない実力を持った店だ。それでは横綱はどこの店になるだろう。それは考えるだけで楽しいし、この店を横綱にする人だっているだろう。


三宮駅から神戸税関に向かう大通りを南に歩いて行って花時計線を右に折れる。そしてすぐのガソリンスタンドのところで左に曲がって50メートル。向かいには中華料理の高級店『第一樓』がある。



道路から見ると低い位置に店のフロアがあるため、店に入ってすぐに下りの短い階段がある。短い階段を下りるという簡単な動作が、外の世界とまた違う世界に踏み入れたような感覚を与えてくれる。こうした少しの手間がとても良いアクセントなっている。



階段を下りる過程ですぐに気づくのが床の大きなタイルだ。入って正面のレジ前の床にある中世のモザイク画のようなタイルで、床のこの部分は神戸洋食界?ではとてもよく知られている。「JUJIYA1933」とある。古き良き港町神戸の時代を思い起こさせるようだ。この店は創業時、百貨店・そごうの横に位置し、外国語が通じるレストランとして知られていたらしい。他店にはあまり例のない、趣のあるタイルだったため、許可をいただき撮影させていただいた。



私はハイシライス(ハヤシライス)と迷い、ビーフカツレツ(ビフカツ)を注文する。ビフカツは1550円。それに600円追加して、小さなポタージュとライスをセットにつけてもらう。ハイシライスをさっと食べてさっと店を出ていく気軽さも捨てがたいが、せっかく神戸までやってきたので、本場のビフカツを食べることがその時は魅力的なように思えた。



付け合わせは茹で野菜に加え、マカロニのトマトソース。茹で野菜は優しいと思う。たっぷりの生野菜サラダというのとも違う上品さもある。ビフカツは最初から切られている店もあるが、『グリル十字屋』は自分で切るタイプだ。ナイフとフォークを使用し、衣が肉からはがれないように注意深く、切り分けていく。切り分けた一片に3日間煮込んで作るというデミグラスソースを絡めて口に運ぶ。トンカツともチキンカツとも違う、ありえない美味しさだ。外の衣はサクサク、中は弾力満点の赤いミディアムレアである。量はそれほど多くはないが、大人にはちょうどよい。多くの外食の量は多すぎるのかもしれない。本来はこのくらいが適度なのだ。


気軽なメニューもある洋食店でも、ビフカツは高価である。時計のセイコーが安いモデルもあるのに、グランドセイコーみたいな高級モデルを作っているのにも似ている。ビフカツは大体、どこでも2000円以上。牛肉をカツにするだけで、レベルが一つも二つも違う。それどころかジャンルを超えていく。ビフカツを食べている時の充実感はほかの食べ物ではなかなか得られないものだ。


◇  ◇  ◇


そしてそれからさらに日が経った別の秋の日。紅葉も進み、肌寒く感じる頃だった。私はまた『グリル十字屋』を訪れていた。あの時のハイシライスが気がかりになってしまったのだ。私は今度はハイシライスを注文する。950円だった。



ハイシライスの気軽さは何なのだろう。同じく気軽なカレーの場合、(好きだとはいえ)食後までカレーに支配されるし、チキンライスというのも何か違う。オムライスは何となく手間がかかり、ラーメンや蕎麦だと実務的だ。ハイシライスの絶妙さは、他には代えがたい。自慢のソースで煮込まれた細切りの牛肉と玉ねぎ。主役はソース。少なめのライスに絡めて食べる。



アップで。ソースが輝いている。量は、前回のビフカツと同じように、軽めである。しかし大人ならば、このくらいがちょうど良いはずだ。前回の訪問が9月。秋に入ろうとしている頃だった。そして今回、秋が終わろうとしていた。秋分のビフカツ。晩秋のハイシライス。2019年の年末の大掃除のように、秋の出来事を振り返る。

『麒麟亭』と京都水族館・2019年夏

麒麟亭』のことを書きたいと思う。2019年もほとんど終わり、映画のクライマックスのようなこの段階で、ずいぶん前の夏のことを思い出して記録に残すのは自分でも「どうなのか」と思うのだが、2020年になれば本当に残せなくなってしまうので、年末の大掃除のような気持ちで書き残しておきたいと思う。2019年も他の年と同じように、洋食をよく食べた。その中に、初めて訪れた店や、過去のブログに書いてなかった店があるので、思い出しながら書いていく。


それは2019年の夏のことだったー


麒麟亭』は京都の七条大宮からすぐのところにある。大正時代創業の老舗で、古くから京都に住んでいる人ならよく知っている店だと思う。私は京都に何年か住んだが、その頃は今のようにスマートフォンもなかったので、この店のことは知らなかった。よくある観光客向けのガイドブックには何故かこの店が載っていない。それは当時からそうで、いまでもそうだ。みんなが知っている老舗なので載せる必要がないのか、七条大宮というロケーションのため有名な神社仏閣がなく一緒に訪れるスポットがないからそうなのか、理由は不明だが、ガイドブック類からは無視されている。しかし大正時代創業の洋食の名店で、古くから京都に住んでいる人ならほとんどの人が知っている店である。世界的な観光都市である京都で、住人と観光客で認知度に相当な差がある。そういう状況はかなり面白い。


この店の前を初めて通りがかったのは、京都水族館を訪れるためにこの周辺を歩いたことだった。その時は、訪れることがなかったのだが、独特な雰囲気が心に残った。その日のうちに調べてみると、かなりの老舗洋食店であることが分かった。せっかく近くに来ていたにもかかわらず、そのとき私は、すでに昼食をその辺の喫茶店で、レトルトの疑いのある人工的なカレーを食べてしまっていたのだ。私はその運命を呪った。カレーを食べた後に洋食を食べることはできない。その思い出を引き摺っていた。


そして2019年の夏。京都水族館に向かっていた私(と上の子)は、近くに『麒麟亭』があることを覚えていた。二度目は確信に満ちていた。京都水族館に行く途中、覚えていた道を歩き、店に向かう。


店を前にしてまず書いておきたいのは「老舗」感、老舗らしい風情がすごいということだ。だから気になっていたということがあるのだが、「地方の町に一軒だけある老舗」ならこういう雰囲気を持った店があるかもしれない。独特の雰囲気が歴史を物語っている。あまり京都では見かけないタイプの、例えば松本や高山にありそうな民芸調の趣である。それでは中に入ってみよう。満を持して、店に入ると、洋食店というよりは、郷土料理の店のようである。


コの字型というのだろうか、調理場を囲むカウンターが目に留まる。ロの字型かもしれない。その記憶はあいまいだ。椅子席もスペースが大きめに取られ、大人四人でも窮屈な感じはないだろう。客層はやや高く、年配の夫婦、それほど若くないカップル、龍谷大学関係者らしい二人組(龍谷大学大宮学舎が近い)。年配の女性四人組。カウンターも一人客が三人ほど。平日ということもあり、席は空いていた。圧倒されそうな重厚な雰囲気があるが、一部の老舗によくある、お高くとまったところはなくて、接客にも温かみがあり丁寧。子連れでも全く問題ない。


メニューには、名物がずらり。「わらじビーフカツ」。それほど大きいのだろうか。「わらじ」というネーミングが良い。普通は「L」とか「特大」なのだが「わらじ」というのが洋食店なのに和風で、何とも老舗らしくて良い。「海老クリームコロッケ」。食べる前から美味しいことが分かっている(子供用に注文したが美味しかった)。そして「牛鍋」。私は牛鍋を注文する。牛鍋とは何だろう。すき焼きとは違うのだろうか。ずいぶん昔に歴史の授業で、江戸末期から明治にかけての時代にかけて流行った牛鍋というものを知ったとき、いつか食べるチャンスがあるのだろうかと思った記憶が残っている。歴史の資料集で見た牛鍋に対し、私は少年的な憧れがあった。



まずはサラダと漬物が運ばれる。



ほどなく、メインの料理が提供される。見かけからすると、関西風の、割り下を使わないすき焼きではなく、関東風のすき焼きである。違うのは卵の扱いだ。肉は生卵につけて食べるのではなく、あらかじめ鍋の中に入っている。牛とじというほど混ざっていなくて、卵は最後の仕上げに入れた模様である。全体的には、肉を野菜と豆腐と一緒に鍋で煮込んだ料理である。文字通り、肉の鍋、肉鍋だった。牛鍋とは、関東風のすき焼きに近いものだったのか。



私は鍋をつつく。豆腐を箸で二つに割り、口に入れる。野菜を口に運ぶ。牛肉を噛んでみる。みりんの味が出る、すき焼きと同様にシンプルな味付けだ。出汁が効いている。甘すぎず、コクのある出汁で煮られた具材たち。これは老若男女、誰もが好きな味だろう。歴史的な店で食べた牛鍋は、文明開化の味がした。




私は肉鍋を食べ終わり会計を済ませ、満足した気持ちで店を出る。何年越しで訪れることができたのだろう。そして次の目的地である京都水族館に向かう。





京都水族館は、大阪の海遊館の巨大水槽のような目玉はないが、見どころの多い水族館だ。新しめの水族館で、京大白浜水族館や和歌山県立自然博物館、琵琶湖博物館のような学術的なところとは対極的なエンターテイメント寄りの水族館で、ショーもあり、水槽にプロジェクションマッピングを駆使した演出もあり、魚の種類も多い。その、広く見どころが散らかっている感じが好きで、私は気に入っている水族館のうちの一つだ。


好きな京都水族館だけでなく、『麒麟亭』に行くことができ、幸せな夏の休日となった。

ポリーニのショパン後期作品集

ポリーニによる『ショパン後期作品集』を聴いている。ポリーニは現在、77歳。録音は2015年、73歳の時のものだ。


幻想ポロネーズ、舟歌~ショパン後期作品集

幻想ポロネーズ、舟歌~ショパン後期作品集


一曲目の舟歌、冒頭のフレーズを聴いたとき、70歳を超えたピアニストが弾いているとはとても思えなかった。信じられほど気鋭に満ちた、力強い音が鳴っていた。しかし若いピアニストの音ではない。若い人にこんな音は出せない。


その上でこの柔らかさ。繊細さ。ピアノの化身のような、卓越したテクニック。楽譜に書かれた全ての情報を描ききるため、完璧な演奏で追い込むような獰猛な雰囲気は年々薄れているが、紛れもなく、ポリーニ。このショパンは、老年期に入ったポリーニによるものだった。ポリーニはピアニスト、音楽家として、圧倒的で、伝説的で、ミシュランレストランガイドで言えば三ツ星クラスで、そのために旅行して聴くほどの価値がある、普通ではない有り難さがある。遠くまで旅行しなくても、つい数年間まで、私にも大阪でも聴くチャンスがあったのに、どうして行かなかったのだろう。


ピアノの達人であるポリーニと言っても、加齢による衰えは当然あるはずだ。しかし若い頃と同じように鍵盤を支配するようなスタイルは同じで、いくつになってもアスリートであると実感する。私には、元ロッテの村田兆治が引退後も、速球にこだわり続け、140キロ近くの速球を投げていたことが思い出された。


作品59。3つのマズルカが続く。59の1では儚く陰りのある演奏。59-2のテクニカルなワルツを経て、59-3で若い頃と変わらない豪快な演奏を聴かせる。


作品61の「幻想」ポロネーズは深い。人生のエッセンスが詰まっている。それは、かつての天才料理人による、一筋縄では行かない、記憶に残るおもてなしのようだ。しかしいかにも大家というような、固定したものでなく、流動的で、いまだに変化に富んでいて、柔軟性を感じさせるものだ。私はウォークマンでこの曲を聴きながら歩いていたが、雄弁なピアノによって語り尽くされる、情景のあまりの美しさに、思わず目を閉じてしまい、危うく転びそうになった。


2つの夜想曲。作品62。こんな慈愛と癒しに満ちたノクターンが他にあるだろうか。この演奏で描かれるイメージは言葉にできない。


演奏は続く。


作品63。3つのマズルカ。作品64。3つのワルツ。このアルバムのコンセプトにブレはない。ショパンの晩年の曲として選ばれた珠玉の作品群である。それらを73歳の、かつての天才ピアニスト、ポリーニが弾く。ポリーニはいくつになってもポリーニだ。ポリーニも一貫している。いくつになってもアスリートだ。


作品68の4。マズルカ ヘ短調 《遺作》。最後のマズルカはまさに絶唱。このまま消えてしまいそうな静寂の美。ありがたいものを聴かせてもらった。