浜省を大人買い(2)
浜田省吾は、1975年に愛奴のメンバーとしてデビューし、1枚のアルバムを残している。グループ結成時はドラム奏者であり、ボーカリストではなかった。その後、音楽性の相違からグループは解散し、1976年にアルバム『生まれたところを遠く離れて』とシングル『路地裏の少年』でソロデビュー。以来、37年。浜田省吾名義としてのオリジナルアルバムのリリースは2012年までの37年間で17枚を数える。
17枚という数はこのキャリアの歌手としては少ない方だ。1990年までは1年もしくは2年でコンスタントにアルバムを発表していたが、それ以降はリリースの間隔が非常に長くなっており、直近の3枚は5年スパンで発売されている。そして、2005年を最後に、オリジナルアルバムは発売されていない。近年では、コンサートで精力的に活動している一方、作品作りという点で見ると寡作のアーティストと言える。
浜省のマイブームが突然訪れ、CDを大人買いしたことを先日書いた。大人買いによって再び手にしたCDについて今日は書いてみたい。(内容的に、コアなファンの方には物足りないかもしれませんが、「一クラシック音楽ファンが好きな浜省」ということで、読んでいただいたら嬉しいです。)
■J.BOY
- アーティスト: 浜田省吾
- 出版社/メーカー: ソニー・ミュージックレコーズ
- 発売日: 1999/09/29
- メディア: CD
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1986年リリース。冒頭の曲『A NEW STYLE WAR』のテーマは戦争である。視点は本質を突き、表現は鋭利で、彼よりも若い歌手がテレビから流れてくるおぼろげな知識で書いた曲とは、一味も二味も違う。確信に満ちている。このアルバムと、次々作『Father's Son』を浜省における社会派2大アルバムという位置づけをするファンが多い。『J.BOY』は、「仕事終わりのベルに、囚われの心と体取り返す夕暮れ時」という歌詞で始まる。「掲げてた理想も見失」った世代に対し、「頼りなく豊かなこの国に何を駆け何を夢見よう」と問いかけ、「日常を打ち砕き」、「孤独を受け止め」、「むなしさを吹き飛ばせ」と鼓舞する。カリスマである。他には、『もうひとつの土曜日』、『19のままさ』など、浜省のキャリアを代表する名曲が収録されている。
■Father's Son
- アーティスト: 浜田省吾
- 出版社/メーカー: ソニーレコード
- 発売日: 1999/09/29
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1988年リリース。尖っていた『J.BOY』よりも、さらに尖っている。冒頭の『BLOOD LINE(フェンスの向こうの星条旗) 』からいきなりディープな物語で、父親を知らない(進駐軍の兵士との間に生まれた)どこかの17歳が主人公で、行き場のない怒りと苛立ちが描き出される。続く『RISING SUN(風の勲章) 』のテーマは戦後の焼け跡からの復興である。『WHAT’S THE MATTER,BABY?』は、ハングリーでしたたかでなければ生きていけないサラリーマンを主人公にした歌で、「社内の医務室、まるで野戦病院」という歌詞が秀逸。
■愛の世代の前に
- アーティスト: 浜田省吾
- 出版社/メーカー: ソニー・ミュージックレコーズ
- 発売日: 1999/09/29
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1981年リリース。テレビドラマとのタイアップで有名な『悲しみは雪のように』のオリジナルバージョンが収録されている。オリジナルはずいぶんと牧歌的であるが、この素朴なサウンドの方を愛するファンも多い。『愛という名のもとに』もドラマのタイトルとなったほどの有名曲で、劇中でも挿入歌として使用された。「陽のあたる場所」は許されない愛を書いた名曲で、メロディも歌詞もズバ抜けており、私自身には経験がないにもかかわらず「わかるわかる」という感じであり、いま現在不倫中の人が聴いたら涙を流してしまうのではないだろうか。
■My First Love
- アーティスト: 浜田省吾,星勝
- 出版社/メーカー: SME Records
- 発売日: 2005/07/06
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2005年リリース。現在、もっとも新しいアルバム。この作品をもって最高傑作に挙げるファン多数。力強い父親像の賛歌『I am A Father』、「すぐに帰るつもりで車を車庫から出し」、そのまま蒸発したダメな父親像を描いた『花火』の世界観が対照的。『I am A Father』については狙いすぎという声もあるかもしれないが、アップテンポのジャパニーズ・ロックで、突き刺さる歌詞、ポップなメロディ、心拍数を上げてくるような高揚感に満ちたビート、いずれも高いレベルであり、キャリアにおける最高傑作のひとつ。アルバムタイトルにもなっている『初恋』は、戦後の激動の昭和史を背景に疾走するロックの歴史と密接にリンクした自分史を振り返っていくスケールの大きな名曲で、メロディ、歌詞も含め、一人の歌手が描き出した世界として、私は尊敬以外の気持ちを持てない。自己撞着、自己模倣に陥っていくベテラン歌手が多い中、こういう曲を書ける50代って本当にすごいと思う。
『君と歩いた道』という作品もずば抜けている。詩がすごい。「もし15歳の夏に戻ることができたなら」というテーマの曲で、つまらない争いで失った友達とやり直し、夢への階段を真っ直ぐ歩む、かつて理想だった人生を描いていくのだが、後半、「君」と出会えず愛されなかった人生の空しさを「悲劇」と悟り、もし15の夏に戻ったとしても今の人生を選ぶ、というストーリーがわずか5分少々の短い曲の中で語られる。他にも、このアルバムは「捨て曲」なし。すべての曲に外れがなく、まるでベートーヴェンの9曲の交響曲のように、光を放っている。
今回聴きかえしてみて、改めてすごいボーカリストであり詩人でもあると再認識した。そんな歌手がまだまだ現役で、作品的にはピークを維持し、元気であるということが嬉しい。