ダニエル・バレンボイム
ダニエル・バレンボイム(Daniel Barenboim,1942年11月15日−)はアルゼンチン出身の音楽家です。
彼ははじめピアニストとして世に出ました。
早熟の天才として有名で、最初のリサイタルを開いたのが7歳のとき。
60年代後半からは指揮を学び始め、10代のうちに指揮者としてもデビューしました。
1970年代から積極的に指揮を始め、1980年代にはパリ管弦楽団を、そして現在までシカゴ交響楽団首席指揮者を歴任し(2005-2006シーズンで退任予定)、ベルリン国立歌劇場の音楽監督も務めています。
2005年にはベルリン国立歌劇場オーケストラ(ベルリン・シュターツカペレ)を伴って来日したので、聴きに行かれた方も多いと思います。
そんな輝かしい経歴を誇るバレンボイムですが、彼ほど過小評価されている音楽家も珍しいと思います。
たとえば、
「バレンボイムという音楽家を見ていると、有り余る才能を湯水のように無駄遣いしているように思えてならない」*1
「バレンボイムの指揮したドイツ音楽には何一つとしてインスピレーションを感じることがない。バカバカしさ、さえも感じないくらいだ。」*2
と、評論家による評価は散々。
一般のクラシックファンからの評価もまちまちで,
経歴と名声、実力の割に、日本では比較的、不当に低く評価されている音楽家の一人です。
もっと評価されて然るべき音楽家です。
今日は私の手持ちのCDから、バレンボイムのCDを紹介したいと思います。
-モーツァルトもの
この2枚は1人でピアノと指揮を兼ねた弾き振りです。若い頃のものは瑞々しさが売りで、急に早くなったりゆっくり聴かせたりとかなり大胆なテンポ。まるでモーツァルトが弾いているような錯覚を起こさせます。そしてベルリンフィルを弾き振りした新しいもの。オーケストラの規模と力量が上がって冒険は薄れたように見えます。しかし、より全体のバランスがよく、バレンボイムの音楽家としての充実した歩みを感じさせる重厚な演奏となっています。他にもモーツァルトについてはすべて素晴らしいと思います。バレンボイムのモーツァルトに失敗はない、というのが私の意見です。
-ブラームス・交響曲全集
これはブラームスの4つの交響曲が4枚のCDに収められた全集です。演奏は重厚そのもの、アメリカのシカゴ交響楽団がつくる重厚な音色が特色です。「私はいまブラームスを聴いている〜」という感慨に耽ることができます。この全集はどれも甲乙つけがたい名演ですが、私は第2番が一番好きです。ブラームスの「田園」と評されることもあるこの作品が、まさに「田園」らしくゆったりとしたテンポで演奏され、安心して身を任せることができます。また、フィナーレの盛り上がりは相当なものです。バレンボイムの音楽性はブラームスと非常に合っていると思います。
バレンボイムのピアノを聴く!
ベートーヴェンのいわゆる3大ソナタ集です。ピアノソナタ全集も出ていて、そこからの選集になっています。このCDは、バレンボイムのピアニストとしての魅力が詰まった一枚といえます。抜群のテクニックとバランス感覚。実に堂々とした演奏です。ややあっさりした演奏なのでベートーヴェンに精神性を強く求める向きには不満があるかもしれませんが、私はこの演奏が一番肌に合います。余談ですが、バレンボイムのベートーヴェンにはベルリン・フィルを弾き振りしたベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」があります。これはまさに現代の巨匠による「皇帝」です。この曲には素晴らしいものがたくさんありますが、それらに肩を並べるベストの演奏だと思います。
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私はどちらかといえば、重々しい演奏よりは軽快な演奏が、巨匠的な演奏よりは分析的な演奏が好きな方ですが、バレンボイムの音楽は重厚そのものなのに受け入れられる演奏のひとつです。クラシック音楽も20世紀末から21世紀にかけて様々な演奏が取り組まれていますが、バレンボイムの音楽には未だ失われていない良き時代の響きが感じられるのです。その演奏は言うまでもなく未来ではなく過去を、革新ではなく伝統を志向したものですが、そんな演奏も素晴らしいと思えるところにクラシックの奥深さと素晴らしさを感じます。
また、ピアノと指揮を高いレベルで維持するというのもよく考えるとすごいことです。ベルリン・フィルのような最高峰のオーケストラを指揮しながら同時にピアノも弾き、素晴らしい演奏を見せる音楽家が存在したでしょうか。
モーツァルトの生涯を連想させずにはいられません。
誰に頼まれたわけでもありませんが、これからもバレンボイムの日本での評価を上げるために、がんばっていきたいと思います(笑)
2007年にも来日が予定されているので(今度はオペラ!)、気になる方は行ってみてはいかがでしょうか。