カルロス・クライバー
カリスマ的な指揮者のカルロス・クライバー(Carlos Kleiber,1930年7月3日-2004年7月13日)が亡くなったのは一昨年の今日のことだ。
20世紀後半を代表する指揮者であるクライバーは、他のどんな指揮者とも違っていた。
まず、創り出される音楽が他の指揮者とはまるで違う。
クラシックは暗く、難しく、おカタい。
もしそんなイメージがあるのだとしたら、私ならクライバーを勧める。
クラシック嫌いになる前に、クライバーを聴いて欲しい。
クライバーの音楽は抜群にセンスが良い。
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悲しい曲はとことん悲しく、楽しい曲はとことん楽しい。
そして、難しい曲はやらない。
しかしクライバーには、継続的に仕事をしようという欲がない。
名門オーケストラの主席指揮者や名門オペラハウスの音楽監督になりたいとかいう権力欲がなく、実際に君臨もしなかった。
年に2〜3回、息のあったオーケストラとだけ、仕事をした。
また、自身の美学を追求するあまり、演奏会をキャンセルすることもあったという。
必然的にチケットの入手は難しくなり、仮にチケットを入手できたとしても、はたして本当にクライバーを聴くことが出来るのか、当日、彼が指揮台に立つまでは誰にもわからなかったという。
◇ ◇ ◇
不幸にして私は彼の実演に接したことはない。
新しくクラシック音楽を聴き始めた私にとって、カルロス・クライバーは伝説の指揮者だ。
多くの人が、フルトヴェングラー*1やトスカニーニ*2、ブルーノ・ワルター*3に抱くような感情を、私はクライバーに対して持っている。
幸運なことに彼の指揮姿はいくつかの記録に残っている。
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映像を見て驚いた。
演奏者がほとんど指揮者を見ていない(もちろん見ている演奏者もいる)。
クライバーの指揮はわかりにくい。
一見すると、何をやっているのかわからない。
膝の辺りでタクトを振っているときもある(おそらく後ろの演奏者からは見えていない)。
体全体を揺らして指揮するようなときもあれば、
ほとんど動かずに指先の小刻みな動きだけで表現することもある。
ダンスかバレエでも踊っているかのようだ。
舞うクライバーとは対照的に、
オーケストラの団員の表情はものすごい形相になっている。
指揮者を見ない代わりに、必死に他の音を聴いて、ハーモニーを崩さないように努めているように見える。
この指揮は、団員にも良くわからないのでは!?
なのにこの瑞々しい音楽はどうだろう。
オーケストラの鳴りっぷりが素晴らしい。魔力的なリズム。そしてスピード感。
よく知っている曲が、そこで初めて演奏されているかのような新鮮さで迫ってくる。
クライバーの音楽は、他とはぜんぜん違う。
いまだに新しいファンを魅了してやまないクライバー。
録音は決して多くはないが、残された録音は、そのすべてが名演だ。
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