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世界の指揮者ランキング20人(現役編)


中高年男性にとって、プロ野球の監督とオーケストラの指揮者は、「生まれ変わるならどんな職業をしてみたいか」という問いに対して、昔から上位にランクされる、憧れの人気職業だそうだ。


個性の強い音楽家をまとめたり、また共演する歌手やソリストと渡り合っていかなければいけない上に、現代の指揮者は多忙で、経営のこともわからないといけないし、未来の展開のビジョンを描くという政治家や企業家のような素養も必要とされるので、私などは到底御免だが、それでも一般的にいって憧れの職業であることに変わりはない。


オーケストラがなければひとつの音も出せないのが指揮者だ。オーケストラの中で音を出さないパートはただ一人、指揮者だけである。なのに指揮者によってオーケストラの音は全然違ってくる。こんな仮定をしてみるのだが、ベルリン・フィルを指揮好きのファンが振った時よりも、高校の学校オケをカルロス・クライバーが振った時を比べたら、絶対に後者の方が素晴らしい音楽をやると思う。そのあたりが、指揮者で音楽を聴く醍醐味だ。


そこで、今夜は憧れの職業である、現役の指揮者のランキングをやってみたい。ただし、活躍中の指揮者なので、順位は付けない。日本語で書かれたこのブログを読んでいるとは思わないが、人間、勝手に格付けをされて気分が良いはずはない。だから、順位は問わない。プロフェッショナルな指揮者は「みんな優れている」ということをまず初めに言っておきたい。また、できるだけ公平に選んだつもりでも、私の好みも入ってしまうので、選に洩れた指揮者のファンの方はご容赦ください。


◇  ◇  ◇

選定ルール
(1)2011年4月現在で存命中の指揮者から選ぶ。
(2)自分の好みを度外視してできるだけ公平に選ぶ。
(3)名前の後は生まれた年、2011年4月現在の主のポスト(常設オケ以外も含む)


1.ニコラウス・アーノンクール(1929年-)

モーツァルト:レクイエム

モーツァルト:レクイエム

若いころに衝撃的な演奏を繰り広げ、賛否両論を巻き起こす演奏も多かったが、長い年月を経て、クラシック音楽界の中心に位置するようになった。権威を嫌ったアーノンクールが、もっとも権威あるウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートに登場するような、人気指揮者になるとは誰が想像しただろう。日本には1980年代に来日したものの、飛行機嫌いで知られ、ファンは生の舞台に接することを諦めていたが、2006年に「最後の来日」として日本を訪れ、ファンを喜ばせた。大阪では『シンフォニー・ホール』ではなく、それより随分小さな『いずみホール』に登場して、ファンを驚かせた。そして2010年にも再び「最後の来日」として、来日して、ファンを狂喜させた。


2.クラウディオ・アバド(1933年-)グスタフ・マーラー・ユーゲント管(音楽監督)/モーツァルト管(音楽監督)/ルツェルン祝祭管(音楽監督

ベートーヴェン:交響曲第9番

ベートーヴェン:交響曲第9番

個人的に、いま一番「ありがたい」指揮者だと思う。大病を患って、復帰してから、つくりだす音楽が異様に深くなった。青年時代の、スマートでエネルギッシュな音楽づくりもよいが、最近の演奏は美しく枯れている。神々しいとすら感じる。


3.ベルナルド・ハイティンク(1929年-)シカゴ交響楽団(首席指揮者〜2010年まで)

Symphony 7 (Hybr)

Symphony 7 (Hybr)

カラヤンクライバーバーンスタインベームが活躍していた頃から指揮者をしていた、往年の大指揮者時代の匂いがぷんぷんする。丁寧で実直、地味で華がない。なんて言われていた頃から、世界のトップオケの筆頭にあるコンセルトヘボウを率いていたなど、キャリアは申し分ない。そして現在アメリカのスーパー・オーケストラ、シカゴ響を振っている。


4.ロリン・マゼール(1930年-)トスカニーニ・フィル(音楽監督)/ミュンヘン・フィル(首席指揮者2012年より)

クラシック音楽界に時々生まれる天才のひとり。10歳かそこらでプロのオーケストラを指揮したという伝説を持っている。人間離れした耳の良さと、華麗なバトン・テクニックを持っている。以前に読んだ吉田秀和氏の著作に「子供のように純粋でナイーブな若者」ととして描かれていたのが意外だった。もっと、腹黒くて(失礼!)、政治的なことが大好きなイメージを持っていたのだが。


5.リッカルド・ムーティ(1941年-)シカゴ交響楽団音楽監督・2010年)

ヴェルディ:レクイエム

ヴェルディ:レクイエム

チョイ悪で、怖そうで権力志向な感じが(本人が見ていたらごめんなさい)カラヤンっぽい。しかし生み出す音楽は全然俗っぽくなくて、作曲家への敬意が前面に出た、真摯で謙虚なもので、大変に美しい。


6.ピエール・ブーレーズ(1925年)シカゴ交響楽団(名誉指揮者)

ストラヴィンスキー:春の祭典、ペトルーシュカ

ストラヴィンスキー:春の祭典、ペトルーシュカ

アーノンクール同様にいつのまにか保守本流の人気指揮者になっていた。若いころの演奏はアバンギャルドでエネルギッシュでアナーキーだった。


7.ジェイムズ・レヴァイン(1943年-)メトロポリタン歌劇場(芸術監督)/ボストン交響楽団音楽監督

ホルスト:惑星

ホルスト:惑星

以前に読んだ本で「アメリカが生んだカラヤン」なんて表現されていた。だからそんなイメージが固定化してしまっている。なるほど、スマートでスピード感があって、強靭で重厚で、煌びやかなところなどはそっくりである。人気、実力、実績から言うと、アメリカで一番の指揮者だと思うので、ただそれだけではないと思うのだが、私は実演に接したことがないので何とも言いようがない。


8.ダニエルバレンボイム(1942年-)シュターツカペレ・ベルリン音楽監督)/ミラノ・スカラ座(客演指揮者)

クラシック音楽界に時々現れる天才。マゼールの後に現われたのがバレンボイムだった。小学生の時にリサイタルを開いたり、フルトヴェングラーに天才と認められたり、そんな子供は神童としか表現のしようがない。指揮者としても成功した現在もピアニストとしても一流。世界のどんなオーケストラも弾き振りできる。オペラも暗譜で振れる。頭脳明晰。要するに、なんでもできる。好き嫌いは別にしていま一番巨匠っぽい指揮者だ。


9.ズ―ビン・メータ(1936年-)イスラエル・フィル(終身音楽監督

マーラー:交響曲第1番

マーラー:交響曲第1番

音楽的にどうかというのは別にして、クラシック音楽の本場である西洋からすると辺境に位置するインド生まれでありながら、ここまで来た。実績がすごい。舞台での存在感も一流である。イスラエル・フィルの「終身名誉監督」という決定的なポジションにいるところも微妙でまたすごい。


10.サイモン・ラトル(1955年-)ベルリン・フィル(芸術監督)

ブラームス:交響曲全集(DVD付)

ブラームス:交響曲全集(DVD付)

世界最高のオーケストラの芸術監督というだけでランキングに入る。演奏は異様に細かく、獰猛で、攻撃的で、つまりは表現主義的である。ある意味、肉食系な演奏は、好きな人にはたまらない。


11.ヴァレリーゲルギエフ(1953年-)マリインスキー劇場(芸術監督)/ロンドン交響楽団(首席指揮者)

チャイコフスキー:交響曲第6番<悲愴>

チャイコフスキー:交響曲第6番<悲愴>

ロシア、イギリス、ヨーロッパ、アジアと、世界を股に掛ける指揮者。エネルギッシュで獰猛な音楽は、聴き手に挑んでくるような迫力がある。はまった時の演奏はすごいし、全身を支配するように圧倒される。


12.コリン・ディヴィス(1927年-)ロンドン交響楽団(総裁)

Symphonies 1-3

Symphonies 1-3

落ち着いた、渋い大人の演奏を聴かせる。クラシックが上流階級の第一の教養であるイギリスを代表する一流の指揮者である。同じイギリス人でもラトルは野心的で攻撃的で肉食系だが、コリン・デイヴィスは草食系である。


13.シャルル・デュトワ(1936年-)ロイヤル・フィル(芸術監督・首席指揮者)

海~ドビュッシー:管弦楽曲集

海~ドビュッシー:管弦楽曲集

カナダのモントリオールで、フランスものの名演を繰り広げたが、フランス人ではなく、スイス人。N響をはじめ日本とのゆかりも深い。


14.マリス・ヤンソンス(1943年-)バイエルン放送交響楽団音楽監督)/ロイヤル・コンセルトヘボウ(首席指揮者)

Shostakovich Complete Symphonies

Shostakovich Complete Symphonies

  • アーティスト: London Philharmonic Orchestra,Vienna Philharmonic Orchestra,Dmitry Shostakovich,Mariss Jansons,Berlin Philharmonic Orchestra,Philadelphia Orchestra,Bavarian Radio Symphony Orchestra,Oslo Philharmonic Orchestra,St Petersburg Philharmonic Orchestra,Pittsburgh Symphony Orchestra,Larissa Gogolewskaja,Bavarian Radio Male Chorus,Bavarian Radio Chorus
  • 出版社/メーカー: EMI Classics
  • 発売日: 2006/06/29
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現在かなり勢いのある指揮者。仕事のできるエリートビジネスマンでもある。私はヤンソンスを見ていると、カルロス・クライバーのようだと思う時がある。スマートで華があって、音楽は陶酔的。しかし基本的には健全なので、クライバーほど毒がないのが違う点だが、ムラがあるところなどは似ているのではないかと思う。


15.デイヴィッド・ジンマン(1936年-)チューリヒ・トーンハレ(音楽監督

ベートーヴェン:交響曲全集&序曲集

ベートーヴェン:交響曲全集&序曲集

個人的にはそれほど親しみのある指揮者ではないが、ベートーヴェン交響曲全集は衝撃的だった。


16.ジョルジュ・プレートル1924年-)

ニューイヤー・コンサート2008

ニューイヤー・コンサート2008

もともと実力のある指揮者だったが、史上最高齢で登場したウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートで大ブレイクした。その演奏は狂い咲きをしたかのような勢いだった。「怒れる獅子」という感じで、80歳を超えても一向に老成の兆しはなく、若さ溢れる、やりすぎぎみの演奏を聴かせてくれている。


17.小澤征爾(1935年-)サイトウ・キネン・オーケストラ(指揮・監督)/新日本フィル(桂冠名誉指揮者)

日本が生んだ、はじめて世界で通用した指揮者。日本人がウィーンのオペラ座音楽監督をする時代が来るなんて誰が想像しただろう。世界で活躍する指揮者は多いが、いまだ誰も追いつけない位置にいる。


18.リッカルド・シャイー(1953年-)ライプツィヒ・ゲヴァントハウス(カペルマイスター)

メンデルスゾーン・ディスカヴァリーズ

メンデルスゾーン・ディスカヴァリーズ

イタリア人指揮者全盛である。挙げられなかったビッグネームも、ファビオ・ルイージアントニオ・パッパーノ、ダニエレ・ガッティなど多数。彼らを押しのけて、実績、人気、実力で、アバドムーティを追っているのがシャイーだ。


19.クリスティアンティーレマン(1959年-)ミュンヘン・フィル(首席指揮者・2011年まで)/シュターツカペレ・ドレスデン(首席指揮者・2012年より)

ブラームス:交響曲第1番

ブラームス:交響曲第1番

ここまで挙げてきて、唯一のドイツ人指揮者なのに驚いた。時代に逆行するように重厚な路線。クラシック音楽らしいクラシック音楽を聴かせてくれる。地方の歌劇場叩きあげ。一流オーケストラのミュンヘン・フィルの首席指揮者になって暫くは安定した演奏を聴かせてくれると期待したが、その期間は予想以上に短かった。だが次はもっと伝統あるシュターツカペレ・ドレスデンなのでさらに楽しみでもある。往年の大指揮者の風格が漂うが、まだ50代になったばかり。


20.パーヴォ・ヤルヴィ(1962年-)シンシナティ交響楽団音楽監督)/ブレーメン・ドイツカンマーフィルハーモニー管(芸術監督)/hr交響楽団(首席指揮者)/パリ管弦楽団音楽監督

ベートーヴェン:交響曲第4番&第7番

ベートーヴェン:交響曲第4番&第7番

個人的には若手ナンバーワンだと思う。私は楽器をやらないので詳しいことは分からないが、過去に聴いた演奏会では、とてもわかりやすい、華麗な指揮に惚れ惚れとした。性質の違うオーケストラをいくつも抱えており、それぞれで素晴らしい録音を残している。意欲的であり、能力もあり、家柄にもポストにも恵まれている。


◇  ◇  ◇


以上、20名挙げてみたが、結構、洩れているビッグネームに気づく。ガーディナーノリントンも入っていないし、アシュケナージもないし、スクロヴァチェフスキもクルト・マズアもないし、大野和士もないし、チョン・ミュンフンエッシェンバッハもフランツ・ウェルザー=メストも洩れている。


異論反論多数。20名挙げてみてこれで良かったのかと、考えるときりがないのだが、そろそろ眠くなってきたので今夜はこれとしたい。