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モーツァルトのピアノ協奏曲・最高傑作は?


モーツァルト交響曲は傑作の宝庫と書いたが、ピアノ協奏曲もそうだ。

もともと、ピアニストとしても優れていたモーツァルトであったから、このジャンルでも傑作を数多く書いた。


モーツァルトのピアノ協奏曲について思いを巡らすのはとても楽しい。


「どの曲が好き?」


「どれが一番?」


クラシック好きの間では、この話題だけで、一晩はもつ。

ご飯何杯でも食べられる!?


9番「ジュノーム」?
−新鮮さ。若々しさ。清々しさ。

20番?
−哀切を極めたメロディ。

21番?
−清潔感。

22番?
−明るい曲調なのに時々哀愁を帯びた旋律が顔を出す油断のならない曲。クルクルと変わる表情が最もモーツァルトらしい。

23番?
−端正な曲。第三楽章の躍動感は見事。

24番?
−20番以上に愁然とした曲。この暗さは?この不気味さは?完全にダークサイドの曲。

25番?
−シンフォニック。この曲は交響曲第38番『プラハ』とともに初演された。

26番「戴冠式」?
−華やか。

27番?
モーツァルト最後のピアノ協奏曲は、迷いが浄化されたような曲。交響曲第41番『ジュピター』のような作品。



甲乙つけがたい曲が並んでいるが、私はまずは20番を挙げたい。

この曲の憂いは例えようがない。

例えば深夜。ステレオにヘッドフォンをつなぎ、大音量で聴いてみよう。体の内部から震えが来る。

音楽に感動するということはこういうことを言うのか。

そんな曲だ。


◇  ◇  ◇


第一楽章は、冒頭から悲しげな表情を見せる。オーケストラによって第一主題が展開される。その後ピアノが静かに入ってくる。第二主題は反面、明るい。

第二楽章はロマンス。静かな始まり。端整で詩情溢れるメロディ。しかし中間を過ぎると想像もつかないドラマが待っている。暴力的ともいえる烈しさ。そして最後は静かに終わる。

第三楽章は悲哀に満ちたフィナーレ。まず冒頭の主題がピアノによって提示される。濁らない、透き通ったメロディは息を呑む美しさだ。


モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番/同第21番

モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番/同第21番


この曲に関してはどんな演奏よりも私は日本人ピアニスト・内田光子さんの演奏を好む。しかしスタンダードかと問われれば案外そうではないのかもしれない。伝わってくる情念のようなものがとても濃い。ピアノの音も透明感は抜群なのにとても暗い。モーツァルトのダークサイドがこんなに黒いとは新鮮な驚きだ。バレンボイムの演奏を比べてみるとそれが良くわかる。もちろんバレンボイムも素晴らしい。この演奏は、全く無駄がないというか、無駄なものが削ぎ落とされた演奏だ。ベルリン・フィルなのにことさらにオーケストラの威力が見せ付けられず、ピアノと一体となってモーツァルトの音楽をシンプルに表現している。


どちらも素晴らしい。

が、私は内田光子さんの、情念の黒い炎が燃えるような演奏を好む。