欧州旅行(4)ブダペスト
オロモウツで遭遇しブラチスラヴァまで追いかけてきた雪は、ブダペストに着いた日にはいよいよ本降りとなって、外出をためらうほどになった。
5日間滞在のうちの最初の2日間は、止んだかと思うとまた降り出して、いよいよ本格的な雪になった。それでもカメラを抱え、ほとんど人がいない王宮の丘に無理して出かけて行ったのだが、視界を覆う雪のために、「今日は満足に景色も見られないし写真も撮れないな」ということを確認して帰っただけだった。
ブダペストについて感じた最初の感想は、広い道路が多くて交通量が非常に多い、ということだった。プラハの旧市街などが、自動車の進入に制限を設けているのとは対照的に、ブダペストは車社会だと感じた。ただし、歩道も広いので歩きにくいといったこともなくて、やっぱり街歩きは楽しかった。
■聖イシュトバーン大聖堂
ブダペストを代表する大聖堂。私はこの教会の近くのホテルに宿泊していたので、毎日のように訪れた。観光名所ではあるが、教会だけあって、静謐で厳粛な雰囲気が漂う。私のように写真を撮る観光客に交じって、目を閉じて祈りをささげている人がいた。
■くさり橋
ブダ地区とペスト地区を初めて結んだくさり橋。プラハのカレル橋と同じように、ブダペストでも橋が名所となっている。カレル橋と比べるとずいぶん近代的な橋で戦災で破壊されたが、建設当時の姿に修復されていて、とても美しいと橋だ(しかし最も美しいのは夜にライトアップされた時だと後で知る)。路線バスも走っている。何回かはバスで渡ったのだが、徒歩でこの橋を渡ってみるというのも、この旅行の目的の一つだった。
歩いて渡ってみると、車が走っているだけあって、バスなどが通るとけっこう揺れる。また歩道がそんなに広くないので、前後から強盗に挟み撃ちされたら逃げ場がないな、と思った。いや、川に飛び込む!?。長い橋なので時間もかかり、歩いている途中で少し後悔するが、渡り切った時の達成感。それは小さな幸せではあるが、それなりのものがあった。
■漁夫の砦
白亜の姿が美しい、漁夫の砦。市バス16番で、王宮の丘の三位一体広場まで行ける。三位一体広場から漁夫の砦までは歩いてすぐ。王宮までは少し歩くが、15分ほどで着く。
■王宮
王宮の建物の多くは博物館や美術館になっている。美術館のハンガリー絵画のコレクションは相当なもので、じゅうぶんな時間を割いた。
王宮の丘からの眺めは、このために旅行に来たと言っても後悔がないくらいで、なかでも、ここから望む国会議事堂の気品のある姿は素晴らしいものだった。
■ハンガリー国立歌劇場
幸運にも戦災を免れた、伝統のある劇場で、マーラーが音楽監督を務めて黄金時代を築き、后妃エルジェーベトもよく訪れたという。最近ではソプラノ歌手のアンドレア・ロストがこの劇場出身だ。内装には黄金がふんだんに使われ、豪華のひとこと。シャンデリアの美しさは世界でも有数のものだ。
ハンガリー国立歌劇場では、2回オペラを見た。一回はヴェルディの『運命の力』で、もう一回はプッチーニの『マノン・レスコー』だった。『マノン・レスコー』はプラハでも見たが、プラハで観たのよりもずっと古典的な演出で、昔のオペラのDVDに見られるような舞台だった。
ブダペストにはミシュランに紹介されるような有名店がいくつもあるが、そういうところには行くチャンスがなかった。まず、一人旅というのがあるし、旅先ではもっと手軽にB級グルメを楽しみたいという気持ちがある。
これはグヤーシュ。チェコのグーラシュと同じものだが、ハンガリーが本場の料理。プラハ、あるいは過去にドイツで食べたのと比べると、具よりもスープが主役で、事実、粘り気がなくスープ状だった。また、メニューでも、スープ類に分類されていた。具は玉ねぎ、ニンジン、ゴボウ、牛肉など。スープの味はパプリカの風味がたっぷりで、辛さはややスパイシーで、冷え切った体が十分温まった。
これは、ビーフステーキ・ブダペスト風というメニュー。パプリカやグリーンピース、細切れのレバーなどを煮込んだソースがステーキに乗っている。レバー嫌いの人にとっては何かの間違いであってほしい悪夢の出来事だろうが、私は好きなので、完食した。付け合わせにフライドポテトとライス少々。
これは、マスのフライ。久々の魚料理(マクドナルドで食べたフィレオフィッシュを除く)。全体的に肉料理よりも魚料理のほうが値段が高めだ。ボリュームたっぷりで味もなかなかのもの。パプリカの炒め物が添えられているのがハンガリー風。付け合わせはライス。ライスは日本のコメと違ってピラフみたいで、パラパラに乾燥したもの。それでも久々の米飯はおいしい。
ブダペストはハンガリーの首都だけあって、トカイ地方の名産・トカイワインもスーパーで格安で手に入る。マクドナルドで買ってきたハンバーガーを肴に、晩酌をする。長かった旅行もいよいよ終わろうとしていた。旅の出来事を回想しているうちに酔いがまわり、気がつくと朝になっていた。
■ブダペストの夜景
最終日はようやく太陽が顔を出して、天気が安定したので、ブダペストの夜景を楽しもうと、ホテルで昼寝をした後、夕方になってから王宮の丘に登った。
オレンジ色の輝きは旅情たっぷりで、これがブダペストの本当の美しさだと思った。よく言われる「ドナウの真珠」という形容がぴったりだった。旅の最後にふさわしい景色を堪能した。