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ティーレマン&ウィーン・フィルの交響曲全集


今年発売された、ティーレマンウィーン・フィルによるベートーヴェン交響曲全集を聴いた。このCDは大事に聴きたかったのだが、音楽を聴くことができる時間というと、最近では寝る前のわずかな時間と通勤時間くらいしかなかった。せっかくの演奏を聴いている間に寝てしまっては勿体ないので、通勤時間に聴くことに決めた。1番から聴き始め、部分的あるいは全曲を聴きなおしたりして、1週間かけて、先日、ようやく9番を聴き終えた。「通勤チクルス」となった。通勤の時間が豊かなものとなった。


■国内盤


■輸入盤

Beethoven: the Symphonies

Beethoven: the Symphonies


この全集には、2008〜2010年にかけて行われた、ウィーンのムジークフェラインザールでの全曲演奏会で演奏が収録されている。同じ音源でDVDとブルーレイディスクも発売されている。こちらの映像の方は指揮者の登場から拍手まで、コンサートの一部始終が収められているが、CDでは演奏後の拍手は(当然、指揮者登壇も)カットされている。天下のウィーン・フィルを、ワールドクラスのドイツ人指揮者、クリスティアンティーレマンが振るというので、発売時から大変評判となったCDだが、私は最近ようやく手に入れた。CDの発売時には、リッカルド・シャイーライプツィヒ・ゲヴァントハウス管による全集に夢中になっていたこともある。


聴いてみて思ったのが(聴く前から予想できたとはいえ)、悪い意味でも良い意味でも「伝統的」なベートーヴェン。「復古主義」と言ってもよいようなオーソドックスな演奏。ベームカラヤンが活躍した時代の再現のようで、新鮮度はゼロだ。


しかしこれはなんとも立派なベートーヴェンだ。音楽が決定的に分厚い。ティーレマンの指揮姿は華麗なものではないが、剛腕である。腕ずくでのオーケストラのドライブはゲルマン民族の大移動を思わせる。表現意欲も旺盛だ。ティーレマンは年齢的にも脂が乗ってきた働き盛りの指揮者だ。ただ伝統のレールをなぞるだけではない。楽器編成を変えたり、テンポを細かくいじって、自分の色を出そうとする。その試みはすべてが成功しているわけではないが、楽聖ベートーヴェンに挑む大柄な指揮者の渾身のタクトにウィーン・フィルが応える。


ウィーン・フィルウィーンフィルらしく。巧いウィーン・フィルがさらに巧い。その音は例えようがないくらいに美しい。華麗で優雅。鋭くて、柔らかい。厳しく、優しい。表現力は圧倒的だ。ウィーン・フィルの音ってこうだったよなと納得する。


9つの交響曲の演奏の出来はどれも甲乙つけがたいが、私は特に2番が良いと思った。3番「英雄」が大曲なため、2番は損をしているが、すごい曲だと思った。ティーレマンウィーン・フィルはそれを気付かせてくれた。6番の演奏が2番に続く。ウィーン・フィルとこの曲との相性は最高だ。いつまでも美音に聴き浸っていたい気持ちにさせられる。


このCDを聴いていて、私がふと思い出したのは、同じウィーン・フィルサイモン・ラトルが振った全集だった。


Beethoven Symphonies

Beethoven Symphonies


こちらは、ティーレマンの音楽作りとは対照的に刺激的で攻撃的なベートーヴェンだった。ウィーンフィルらしさを削いで自らの楽器となるように迫るラトルと、ウィーン・フィルらしさを最後まで出そうとするオーケストラ。火花が散るような緊張感のある演奏で、両者の一歩も譲らないせめぎ合いが見事だった。


対照的な演奏を聴き比べてみると両者の特色がはっきりと見えてくる。ティーレマンを聴いた後では、ラトルは、ずいぶんチャレンジしたように感じる。無茶とも言えるが、破壊による革新が現われている。ビートルズを生んだロックの国の指揮者なんだなあと思う。


ティーレマンは、クラシック音楽の伝統を一身に背負うかのような、まるで伝統芸能の継承者のような責任感が見える。その道を今後も極めてほしい。


どちらの演奏が良いとは一概には言えない。聴く日の気分にもよるしコンディションにもよる。解釈の新しさやロックな姿勢を求めるならラトルの全集の方だが、クオリティという点で言うと、ティーレマンの全集も劣らず素晴らしい。初めてベートーヴェン交響曲全集を買うならティーレマンの方が良いと思う。録音品質も高いので、揃えておいて損がない。

【DISC1】第1番ハ長調・第2番ニ長調(2008年12月)
【DISC2】第3番変ホ長調『英雄』(2009年3月)
【DISC3】第4番変ロ長調(2009年3月)・第5番ハ短調『運命』(2010年4月)
【DISC4】第6番ヘ長調『田園』(2010年4月)
【DISC5】第7番イ長調・第8番ヘ長調(2009年11月)
【DISC6】第9番ニ短調『合唱』(2010年4月)※
【DISC7】(DVD) メイキング&インタビュー
( )カッコ内は録音時期

演奏:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:クリスティアンティーレマン(指揮)

ソプラノ:アネッテ・ダッシュ アルト:藤村実穂子
テノール:ピョートル・ベチャワ バス:ゲオルク・ツェッペンフェルト
合唱:ウィーン楽友協会合唱団 合唱指揮:ヨハネス・プリンツ


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