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熊野三山の旅(3)


熊野三山の旅の最終日に、高野山に寄った。


十津川村からの出発なので、わざわざ高野山に行くのではなく、再び本宮を経て那智から串本の方に行っても良かったし、白浜に行っても良かった。子供の興味の為には、とりわけ、白浜に行ってパンダを見ることが、魅力的なプランのように思えた。


しかしこの短い旅行の昨日までを振り返ってみると、途中に太地町のクジラ公園には行ったものの、基本的には寺か神社に参拝することが主となっていた。そんななかパンダを見ることが、どうしてもこの旅行のコンセプトに沿うように思わなかった。パンダならパンダ的なコンセプトの旅を2泊3日するべきではなかったのか。旅行は結局いろいろな要素を詰め込んで盛り沢山にするよりも、限られたコンセプトでやりきるほうが、集中できるし、あとで印象に残る。旅はコンセプト。だから高野山だった。


若き日の弘法大師空海が修業したというのが紀伊山地である。熊野三山を巡った後に、わざわざ高野山に行くということが、この旅を特別なものにしてくれるのではないか。去年、高野山の宿坊に泊まって以来、帰った翌日に再び行きたいほど、その町は何度も行きたい町となっていた。この旅行の流れから言って、高野山に行くことがとても自然のことのように思えた。



旅行では朝早いことが苦にならない。朝6時前には目覚める。健康的に腹が減っている。朝食では茶粥を食べることができた。十津川村奈良県。茶粥の本場だ。


十津川村から高野山へはダイレクトに行けないこともないが、酷道とも言われる険しい道を走らなければならないので(ホテルのパンフレットにさえ、その道は危険なので通らないようにと書かれていた)、奈良県五條市経由のルートを選んだ。結果的には3時間ほどかかったが、その道でさえも、多くのトンネル内では対向車との離合に神経を使いヒヤヒヤした。中央線のない道でしかもライトがほとんど消えかけている、長いトンネルがあり、前方からトラックが猛スピードで来た時には、私は闘牛士の気分だった。



十津川村から高野山は遠かった。1回休憩したが、山道の3時間は車とはいえ疲れた。しかしその疲れを吹き飛ばす逸品の数々。最初に訪れた霊宝館で素晴らしい仏像に癒された。



来年に高野山開創1200年を控え、中門の再建工事も急ピッチで進められているが、伽藍の中では根本大塔や金堂は工事の影響をそれほど受けずに、いつもの風景を見せてくれる。ここではとても穏やかに時間が流れているようだ。


霊宝館、大伽藍の後、女人堂、奥之院という順序で参拝し、大伽藍と女人堂の合間に昼食を摂った。高野山では精進料理を食べることに決めており、『花菱』に行った。高野山には精進料理を食べられるところが宿坊も含めて沢山あるが、『花菱』は間違いなく「当たり」である。メニューはどれも手がかかっており、それ以上に肝心なことに、どれも美味しい。何を注文しても間違いない。



三鈷弁当。2,160円。茄子を三鈷杵に見立てている。味付けはしっかりしており、精進料理と聞いて想像するような、質素な感覚がない。我慢していたり無理をしている感じがしない。肉や魚、卵を使わなくても、これほど惹きつけるものができる見本のような料理だ。運転中だったため、食前酒を飲めないのが残念だったが、その他の料理は全部食べた。


食事を終えた後、奥之院に向かう。中の橋駐車場に車を停めて、参道を歩く。奥之院の参道は墓地であり、歴史上の人物から、無名の人、有名企業人の墓所を左右に見ながら、奥之院、つまり弘法大師の御廟を目指す。



奥之院は、何度訪れても、何度も訪れたいと思える場所だ。時間の流れがゆったりとしている高野山の中でもさらにゆったりとしている、ここだけ時が止まっているような感覚になるところだ。時間が止まっていると言えば、高野山では、弘法大師は現在も生きて禅定しているとされ、日に2回の食事(それに着替えも)が今でも担当の僧によって毎日欠かさずに運ばれている。



この先に弘法大師の御廟がある。私はここに来るのは4回目となる。高野山の奥之院は、「行ってきた」というのよりも「戻ってきた」という感じになるのが不思議だ。「心のふるさと」というと、やや違う表現となるかもしれないが、自分に近い、より大きなものに包まれているような。「帰ってきた」と言っても間違いないようだ。高野山のこの穏やかな空気。ゆったりとした時間。その心臓部である奥之院の静謐な雰囲気。それらが人を懐かしい気持ちにさせるのだろうか。


弘法大師の御廟で旅行の無事を報告したところで、この旅行が終わったことを知った。しかし、最後に高野山に行ったことで、旅がグッと締まった感じとなった。旅行の最後を高野山にして良かった。


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