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奈良国立博物館『快慶 日本人を魅了した仏のかたち』


奈良国立博物館に、快慶の特別展『快慶 日本人を魅了した仏のかたち』を観に行ってきた。



最近の仏像ブームもあり、さらに、人気の「快慶」なので、混雑を予想していたが、平日なので、無茶苦茶混んでいるというほどではなかった。一つ一つの展示を見るために並ぶようなことはなく、じっくり観ることができた。



「有名人」ならぬ、快慶作の「有名仏」である、醍醐寺弥勒菩薩坐像、東大寺の僧形八幡神坐像、青蓮院の兜跋毘沙門天立像などが一堂に会し、非常に贅沢な展示内容だった。


ボストン美術館弥勒菩薩立像などは、全身の彩色がまだ残っており、大変保存状態がよいものだった。これなどは、ボストンからはるばる運ばれてきたものなので、お寺に行って拝観するというわけにはいかず、こういう機会でもないと観られない。他にも、アメリカのメトロポリタン美術館キンベル美術館の貴重な快慶コレクションが来日していた。


他の目玉としては、金剛峯寺孔雀明王坐像がある。高野山でもいつも公開されているという訳ではない貴重で有り難い仏像だ。展示期間が終わっていたため(会期前半のみの公開)、観ることができなかった。しかしこの孔雀明王坐像は、私は一度高野山で観たことがあったので、諦めがついた。


石山寺大日如来坐像は私が好きな仏像の一つだ。お寺で拝観し、思い出に残っている。初めて石山寺を訪れたときのことだ。石段を登ったところに多宝塔がある。多宝塔は、内部が見えるようになっていて、暗がりの中、さらに黒い仏像が見える。それが大日如来で、ゾッとするような不気味なオーラを持つ仏像だった。夢に出てきそうな異様な存在感だった。展覧会では、展示のために、王冠や装飾具が外されていた。その影響もあるのか、私が抱いていた印象よりも、素朴で、オーラが薄れているように感じた。芸術品として、素晴らしいことは素晴らしいが、仏像が持つ霊的な雰囲気は薄れていた。あの大日如来は、あの多宝塔の中に鎮座してこそ、という思いを抱いた。博物館では、こうやって芸術品として鑑賞しているが、本来は信仰の対象である。場所やお寺とセットで力を発揮するものなのかもしれない。そういえばお寺で拝観する仏像の前では無条件に手を合わせるが、確かに、博物館で観る仏像の前では合掌しないな、と思った。


他には快慶作ではないが、京都の清水寺の奥院の本尊、三面千手観音が素晴らしかった。正面と左右に三面の顔、頭上にも小さな二十四面の顔が乗っている。無数の手には、小さな仏像が乗っていたり、花や、杖が握られている。骸骨が乗っている手があるのが独特だった。


まず、この仏像は、清水寺に行ったら拝観できるというものではない。奥院自体は清水寺の中にあるが、奥院の本尊である千手観音は開扉されていない。秘仏である。それも普通の秘仏ではなく、秘仏中の秘仏だ。なにしろ、公開された歴史を調べてみると、前回公開が2003年。最近のことだと思うかもしれないが、そのとき、243年ぶりの公開だったという。「なんちゃって秘仏」ではなく、「本物の秘仏」で、生きているうちに目にすることができたことが奇跡というレベルの秘仏で、それがこの展覧会で公開されていた。2003年に公開されて以後は、2008年の西国三十三ヵ所巡礼の展覧会なども観られてきたようだが、私は初めてだった。快慶作ではないが、快慶風のモダンな作風で、美しい仏像だった。そうした美しさ以上に、怨念めいたものが感じられた。人の目に触れてこなかった歳月の重みが滲み出ているのか、何とも凄みのある仏像だった。


そして事前の知識なしに来たのがまた良かった。圧倒され、いきなり殴られたような衝撃で、こういう素晴らしいものに予備知識なしに出会えたことが良かった。


展覧会の最後の印象は快慶以外のものになってしまったが、質も量も申し分のない、遡っても他にはこれほどのレベルの展覧会がなかなか思いつかないくらいの、素晴らしいものだった。快慶を中心とした仏教芸術を浴びるように堪能した。


特別展『快慶 日本人を魅了した仏のかたち』
会期/平成29年4月8日(土)〜6月4日(日)
会場/奈良国立博物館 東新館・西新館
休館日/毎週月曜日
開館時間/午前9時30分〜午後5時
※毎週金・土曜日は午後7時まで※入館は閉館の30分前まで
観覧料金/一般 1,500円 高校・大学生 1,000円 小・中学生 500円


 

 

 


展覧会の後は、時間がまだ十分あったので、東大寺まで歩いた。特別展に、快慶のあの僧形八幡神坐像を出展した東大寺だと考えると、何度も訪れた東大寺が新鮮だった。東大寺からは展覧会に他に何点も仏像を出展していた。修学旅行のシーズンで、南大門の手前から、平日とは思えない混雑だった。ゴールデンウィーク新大阪駅みたいな混雑だった。そして運慶と快慶らによる金剛力士像。頼もしい大きさだった。この大きさでは博物館に入らないが、これも含めて快慶展であり、これらの像をもって、勝手に、自分なりに、快慶展のまとめとすれば、大変ふさわしいように感じられた。


私は東大寺の大仏殿から参道を歩き、三月堂のところを左に曲がって、二月堂まで歩いた。二月堂まで来ると、修学旅行の児童の姿は見えなくなって、地元の小学生が社会科の校外学習に来ているらしい、ローカルな風景があった。二月堂からさきほど自分がいた大仏殿を眺め、その後、戒壇堂まで歩いた。戒壇堂は、仏像好きの人しかまず訪れない。平日だろうが休日だろうが同じくらい空いている。しかし数人は必ず参拝客がいる。住まいも、性格もそれぞれ異なるだろうが、皆、仏像好きだ。私はそこで快慶の時代よりもずいぶん古い、奈良時代の四天王像を観て、その日のプランを終えることにした。そして近鉄奈良駅まで戻り、帰りの近鉄電車に乗った