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ヴァイオリン協奏曲の名盤


チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を昔はそれほど好きではなかったが、いまはかなり好きになっている。


ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲のように優美でなく、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲みたいに流麗でなく、ブラームスのヴァイオリン協奏曲のように重厚でもないこの曲の良さが今一つわからなかった。もちろん、良い曲だとは思っていたが、それほど好んで聴く曲ではなかったと思う。


ピンと来なかった理由に、CDでは何度も聴いた曲だが、コンサートでそれほどの演奏に出会わなかったということがあるのかもしれない。


しかし、今年の1月に、庄司紗矢香さんとサンクトペテルブルクフィルの共演で、この曲を聴いた。現役トップレベルのソリストによる相当な出来栄えの演奏に接して以来、この曲の凄さに遅まきながらようやく気付いた。


オーケストラは勇壮かつ華麗なメロディーを聴かせる。和音は分厚い。一挺のヴァイオリンだけを携えてオーケストラと対峙するソリスト。実にロシア音楽らしい、大地の匂いみたいなものを漂わせる序奏を終えた後、あるヴァイオリニストによれば、たっぷりとしたテンポで登場する。またあるヴァイオリニストによれば、抑えきれない、鬼気迫る雰囲気で登場する。要求される技巧のレベルは大変に高く、ヴァイオリニストの性質がよく出る曲だ。うまくいった演奏であれば、怒涛のような感動が押し寄せる。


名曲なのでCDはたくさん発売されている。下記に挙げたCDはどれも、現役のトップクラスのヴァイオリニストが弾くもので、どれを選んでも間違いはない。


■ムター×カラヤン

■ムター×プレヴィン

チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲

チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲

ムターは、ギドン・クレーメルと並んで現役ヴァイオリニストとしてはトップだと個人的には思っている(ただし私はそれにヒラリー・ハーンを付け加えたい)。辛口のワインを思わせるクレーメルに対し、ムターのヴァイオリンは、西洋の肉料理のような芳醇な香りがある。ムターには、ヴァイリニスト・ムターを発見したカラヤンとの共演と、プレヴィンの2枚の録音が残されている。スリリングなのは前者の方だが、ヴァイオリニストとして相当にスケールが大きくなった後者も捨てがたい。どちらも外せない名盤。


五嶋みどり

庄司紗矢香

チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲

チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲

この2人を日本人という枠で捉えてはいけないのかもしれない。世界的に活躍するヴァイオリニスト。五嶋さんは神童がそのまま大人になったような演奏で、知的で成熟したアプローチ、技巧面でも言うことない。圧巻だ。これはもう拍手するしかない。庄司さんはテクニックの高さは言うまでもないが超人的ではなくてもうすこし人間寄りというか、迸る若さとか情熱的な演奏で聴かせるヴァイオリニストという感じがする。どちらも素晴らしい演奏で甲乙つけがたい。


ヒラリー・ハーン

チャイコフスキー&ヒグドン:ヴァイオリン協奏曲

チャイコフスキー&ヒグドン:ヴァイオリン協奏曲

現代最高のヴァイオリニストは誰かという問いに対して、ヒラリー・ハーンを挙げる人はとても多いだろう。あの若さなのに、それはとてもすごいことだ。私は実演に2回しか接したことがないが、見える世界が違っていた。ソリスト一人だけが別次元にいる。その感覚が忘れられない。擬人化したヴァイオリン、ヴァイオリンの妖精だと思った。ヒラリー・ハーンにもこの曲の録音がある。相当若いころから名曲を録音してきた彼女にしては、名曲を一通り終えた後、比較的遅く録音したこともあるのか、持ち前の正確で透明感のある音色に加え、落ち着いた大人の演奏となっている。


ユリア・フィッシャー

Violin Concerto (Hybr)

Violin Concerto (Hybr)

天才ヒラリー・ハーンにも好敵手を見つけたい。それは私だけだろうか。ユリア・フィッシャーはそのうちの一人となりうる逸材だ。とはいっても20代の新鋭ヴァイオリニストではなく、年齢的にはハーンと同世代の30代で、既婚者で、子供もいる。若手時代に出場したコンクールのすべてで優勝し、23歳になった時には既に音楽大学で教鞭をとっていた。メジャーデビューは遅かったものの、そのせいもあってか、十分な研鑽の時を経て世に出ることになった。正統派のヴァイオリニストで、巧いのは当たり前にしても、実にエレガントな音が鳴っている。つけ加えると、彼女はピアノの腕前もソリスト級で、一夜の演奏会で、サンサーンスのヴァイオリン協奏曲を弾いた後、楽器をピアノに替えて、グリーグのピアノ協奏曲のソリストを務めたDVDが発売されている。破格の才能だと思う。


フランク・ペーター・ツィンマーマン

チャイコフスキー、ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲

チャイコフスキー、ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲

日本ではそれほどの人気のあるヴァイオリニストではないが、現役トップクラスのヴァイオリニストの一人。一言でいうと、真面目で巧い。ヒステリックなところは微塵もなく、安心して身を任せることができる、落ち着いた、大人の演奏を聴かせる。


■マキシム・ヴェンゲーロフ

情熱のヴァイオリニスト。華麗で圧倒的なテクニックと、独特の節回しは癖になる。生でこんな熱演に接したらきっと会場はブラボーの嵐だ。肩を故障していたが、最近復帰したのが嬉しいニュースだ。このCDは故障前のものだ。


今回、このブログを書くにあたって、これらを聴き直してみたが、どれも良かった。それぞれに良さがあって、比べられない。


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