USHINABE SQUARE

クラシック名盤・名曲と消費 生活 趣味

ヴァイオリン協奏曲〜ヤンセンとバティアシュヴィリ


久しぶりに聴きたくなって、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を聴いた。


ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は、三大ヴァイオリン協奏曲の一つにも挙げられるくらいの有名な曲であり、ヴァイオリン協奏曲というジャンルを代表する傑作である。ピアノ協奏曲を5曲書いたベートーヴェンが、ヴァイオリン協奏曲では1曲しか残さなかったのは、その出来に満足し切ってしまったからなのだろうか。確かにこの曲は、直すところや注文するような点は一切なく、まさに、ジャンルの決定版とも言えるような作品である。私はもし、一つだけヴァイオリン協奏曲を選ぶとなると、この曲を選ぶかもしれない。


抒情的であり、上品であり、優雅な曲で、後世に「楽聖」とまで言われるようになる、ベートーヴェンの高潔な魂が大変よく表れている。


その曲を今回、二人のヴァイオリニストの録音で聴いた。


一枚目はジャニーヌ・ヤンセンによるもの。二枚目はリサ・バティアシュヴィリによるもの。ヤンセンはオランダのヴァイオリニストで、バティアシュヴィリグルジア共和国のヴァイオリニスト。ともに30代後半で、売れっ子で、実力的にも、いまをときめく二人のヴァイオリニストだ。


ジャニーヌ・ヤンセン


ベートーヴェン&ブリテン:ヴァイオリン協奏曲

ベートーヴェン&ブリテン:ヴァイオリン協奏曲


指揮はパーヴォ・ヤルヴィ。オケはドイツ・カンマーフィルハーモニーブレーメン


ヤンセンのヴァイオリンから紡ぎだされる音色の多彩さは相当なものだ。圧倒的な表現力を持っていて、艶があり、雄弁で、情感豊かで、夢中にさせる。そのうえ、積極的に攻めている。グイグイ前に来るタイプ。音楽とはこういうものでなければ、と思った。私は聴き浸ってしまった。ヒラリー・ハーンユリア・フィッシャーのような「神童・天才型」ではないかもしれないが、癖も含めて好きになるタイプのヴァイオリニストだと思う。


小編成のオケはかなりパンチが効いていて小気味良い。ヴァイオリンだけでなく、オーケストラの出来がかなりよく、楽しくてたまらない。このキャスティングは大成功だ。かなり聴かせる演奏である。


■リサ・バティアシュヴィリ



グルジアバティアシュヴィリによる演奏。オケは同じくドイツ・カンマーフィルハーモニーブレーメン。この演奏ではなんと弾き振りを行っている。


美しいルックスから、一時アイドル的な売り方をされてしまったが、本来、クラシカルな名ヴァイオリニストの系譜に連なる、玄人受けするタイプのヴァイオリニストではないか。テクニックは安定していて、引き出しも多い。細かいニュアンスや変化で聴かせることができる、熟練したヴァイオリニストだ。テクニックを誇示しようとするところは全然なく、(意外にそのあたりがトップレベルのヴァイオリニストにとって落とし穴なのかもしれないが、)あくまでも曲に奉仕するためのテクニックであり、自分を失わない成熟が見て取れる。彼女の演奏を聴くことで私はこの曲の素晴らしさを何度も感じた。


パーヴォ・ヤルヴィのようなやり手の指揮者がいない分、ヤンセンの録音と比べると、オーケストラの響きの輪郭はややぼやけている。しかしそれでも十分に質の高い演奏ではある。第一、彼女は本職の指揮者ではないのだ。ただ弾き振りであることがその分、ヴァイオリンを際立たせることに成功している。良い関係のユニットによる室内楽の演奏のような親密な雰囲気を持っている。甘すぎるか、とも感じる分もあるが、その部分も含めて、独特の穏やかな空気が流れているように思う。


上にあげた二人のヴァイオリニストの演奏は甲乙つけがたいレベルであり、過去の名盤と並べても遜色のない演奏である。


人気ブログランキングへ
ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村 クラシックブログへにほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ