ユリアンナ・アヴデーエワ
少し前に買ってそれほど聴いていなかったCDを取り出してきて聴いてみた。
そのCDは、同時に3枚買ったうちの1枚で、ユリアンナ・アヴデーエワがショパン、モーツァルト、リストを弾いたものだ。2016年発売で、私は9月に手に入れた。
- アーティスト: WORKS BY CHOPIN/MOZART/LISZT
- 出版社/メーカー: MIRARE-ITA
- 発売日: 2016/02/12
- メディア: CD
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ユリアンナ・アヴデーエワは、前回、2010年のショパンコンクール優勝者で知られており、その時以来、私が好きなピアニストではあるが、彼女はメジャーレーベルと契約していないため、録音もそれほどない。したがって、久しぶりの新録音を聴けることを楽しみにして購入したのだが、購入しただけで満足してしまったのか、それほど聴いていなかった。
ユリアンナ・アヴデーエワ/『ショパン・モーツァルト・リスト』
ユリアンナ・アヴデーエワの演奏の魅力を一言で言い表すのは難しいが、「知的」であるということと、さらに、素晴らしい情感を備えている、ということは言えるかもしれない。卓越したテクニックと、丁寧な楽譜の読み込み、確固とした音楽観、それらが渾然一体となって、彼女の特有の演奏の魅力を創り出している。
まずショパン。私はショパンの幻想曲がとても好きで、ユリアンナ・アヴデーエワが2010年のショパンコンクールで演奏したCDを愛聴しているが、その時と今回のCDは印象が異なっている。コンクールのときはアスリート的というか、筋肉質でやや固く、コンクール特有の緊張感が漂っていたが、今回はそれよりも自由な気分が感じられる。よりピアニストの個性が出ている。アスリート的ではなく、アーティスト的だ。
モーツァルトは、例えばミハイル・プレトニョフが演奏する即興的なモーツァルトとは一風変わっている。私はどちらかと言えば、モーツァルトの演奏は、いかにも天才を感じるような、才能が迸るような即興的な演奏を好むが、アヴデーエワは、控えめで知性溢れる自らのスタイルを貫いている。特別なことは何もしていないが、こういう丁寧な演奏を涼しい顔してできるまでには、相当の研鑽と熟成期間が必要だと思う。さらに、彼女の演奏を聴いていると、演奏家も聴き手もあまりにも集中しきって、時に気持ちを持っていかれるような時があるが、モーツァルトでは特にその時が多かったように思う。
リストの「ダンテを読んで」はこのCDの中でも最高の演奏ではないだろうか。技巧的にも最高レベルを要求される曲であるが、アヴデーエワにとってテクニックは問題ではない。それを超えたところに関心がある。「音楽性」と言ってしまえばそれまでだが、リストの演奏は、巧いだけのピアニストでは聴いていて苦痛に感じるときもあるが、これは何と豊かな演奏だろうか。大変充実している。音色の美しさ、テクニックの繊細さ、表現の多彩さに打たれる。この演奏は、ロマン派のピアノの巨人、リストを聴く楽しさに溢れている。「ダンテを読んで」はピアノ独奏曲集である『巡礼の年』の中の一曲であるが、アヴデーエワはリストに向いているので、是非いつか全曲録音してほしい。
最後の『アイーダ』は、これはもうオペラの世界である。これで終わりというのではなく、さらに続いて行くような、広がりを持ったフィナーレである。この曲を最後に持ってくるセンスの良さ。