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バッケッティのピアノ協奏曲集


横になってクラシック音楽を聴いていて、そのまま寝ることがある。好きな曲を聴きながらの「寝落ち」はとても気持ちが良い。先日、夜、心地よく寝るために、「落ち着いたクラシック音楽を聴こう」、それも「バッハなら丁度良いかもしれない」と考えて、購入したばかりのアルバムを聴きはじめた。


そのCDは、イタリアのピアニスト、アンドレア・バッケッティによる、バッハのピアノ協奏曲集だった。(バッハのピアノ協奏曲は、もともとは鍵盤楽器チェンバロ)協奏曲だが、ここではCDのタイトル通りピアノ協奏曲とする。)


J.S.バッハ:ピアノ協奏曲集:第1番~第5番・第7番

J.S.バッハ:ピアノ協奏曲集:第1番~第5番・第7番


オーケストラはRAI国立交響楽団からの小規模な弦楽セクションで、指揮者を置かず、弾き振りである。CDのライナーノーツに書かれていたが、バッケッティは指揮はあまり得意でないという。バッハのピアノ協奏曲は、「ピアノとオーケストラが一緒に鳴らすところが多く、指揮に回る部分も少ないので、指揮が苦手な自分の弾き振りでも成立する」と謙虚である。


聴きはじめた瞬間、眠気が吹っ飛んでしまった。これは寝られない。リラックスできる演奏とは対極に属する、クリアな演奏である。クリアで、覚醒している。


バッケッティのピアノは、独特のアクセントを持つ、どこかの国の言語のように、輪郭がクッキリとしたピアノで、まずシンプルである。スケールが大きなタイプではない。フォルテからピアニシモ、大変に幅広い表現力と、繊細なテクニックは、一度も聴いたことがなければ是非一度は聴く価値がある。一風古風で律儀なスタイルは何となくチェンバロのようでもある。バッハを得意とするピアニストは過去に何人も存在したが、どのタイプとも異なる。詩人というよりは、学者に近く、学者でも大家ではなく、きっとまだ若い研究者だ。新しい説を唱え始めたが、まだ学会ではそれほどのインパクトを残していない。しかし何人かの学者からは注目され始めている。数人の後輩がそのあとに控えている。勝手に想像すると、そんなタイプのピアニストだと思っている。


バッケッティの演奏は、安らかな休息をもたらしたり、ノスタルジックな思い出に浸れるものではなく、論理的に構成されているため、こちらも相当の姿勢が必要とされるのかもしれない。バッケッティは酔わせてくれない。まず自分が酔っていないのだろう。クリアで覚醒している。だからこちらも寝られない。また、1000人規模の客席の一人として見る講演会では寝られるが、10人の参加者の勉強会では寝られない。そういう緊張感に近い演奏だ。


そんなわけで寝ようと思っていたにもかかわらず、最後まで聴き通してしまった。聴き終わったとき、午前2時半だった。


彼の独特の個性は、好きになれば、夢中になって、追いかけるタイプのピアノだ。この時は寝られなかったが、寝るタイミングでない時にはよく聴いている。